東京・日本橋に開設された国内最大規模の母乳バンク。寄付された母乳は低温殺菌処理のうえ冷凍保管され、病院からの要請に応じて無償提供される(写真:ピジョン提供)
東京・日本橋に開設された国内最大規模の母乳バンク。寄付された母乳は低温殺菌処理のうえ冷凍保管され、病院からの要請に応じて無償提供される(写真:ピジョン提供)
現在日本母乳バンク協会の代表理事を務める水野克己さんは「日本じゅうの病院に安心安全なドナーミルクを届けたい」(撮影/編集部・深澤友紀)
現在日本母乳バンク協会の代表理事を務める水野克己さんは「日本じゅうの病院に安心安全なドナーミルクを届けたい」(撮影/編集部・深澤友紀)

 出産後、母乳が出るかどうかは母親の大きな気がかり。国は母乳だけにこだわらない授乳支援を進めるが、小さく生まれた赤ちゃんには母乳が確実に必要だ。AERA 2020年11月2日号では、低体重児らを守る母乳バンクを取材した。

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 早く小さく生まれた赤ちゃんにとって「薬」ともいわれる母乳を、低温殺菌して必要な病院に無償提供する「母乳バンク」。その国内最大規模の施設が今年9月、都内に開設された。

■壊死性腸炎のリスク減

 通常、赤ちゃんは妊娠40週前後で生まれてくるが、早産などで1500グラム未満で生まれた赤ちゃんは腸管も未熟なため、ウシ由来の人工ミルクを使用すると腸管の炎症や壊死を引き起こしやすく、妊娠25週未満で出産した赤ちゃんがこの壊死性腸炎にかかると3~4割が命を落とすというデータもある。日本母乳バンク協会の代表理事で昭和大学医学部教授の水野克己さんによると、母乳には壊死性腸炎の罹患率を約3分の1に減らす効果があり、未熟児網膜症や慢性肺疾患などの予防にも役立ち、神経発達予後の改善などの利点もあるという。

「正期産で生まれた赤ちゃんは人工ミルクでも構いませんが、小さく生まれた赤ちゃんに母乳を与えられるかどうかはその子のその後の人生にもかかわってきます」(水野さん)

 ただ、早産などの場合は母親側も出産に向けた体の準備ができていないため、母乳が出にくい場合が少なくなく、早産になりやすい双子など多胎妊娠も母乳が足りなくなることがある。母乳には未熟な腸の発達を促す働きもあり、日本小児科学会は2019年に「自母乳が不足する場合や得られない場合、次の選択肢は認可された母乳バンクで低温殺菌されたドナーミルクである」と提言を発表している。

 母乳バンクは国内ではこれまで水野さんが14年に昭和大学江東豊洲病院内に設置した1カ所しかなく、水野さんと、妻で助産師の紀子さんの2人で年間約100人にドナーミルクを提供してきた。一方、1500グラム未満の極低出生体重児は国内で年間約7千人とされる。海外で母乳バンクを視察したベビー用品大手のピジョンの北澤憲政社長がこうした状況を知り、本社の一角を無償提供し、年間600人の赤ちゃんにドナーミルク提供が可能となる年間2千リットルの母乳を低温殺菌処理できる機材の導入など、開設を全面支援。同社の手塚麻耶さんは「長年赤ちゃんに寄り添ってきた企業として、一人でも多くの赤ちゃんを救いたい」と話す。

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