6月に開かれた「デジタル・ガバメント閣僚会議」に出席する菅氏(写真左) (c)朝日新聞社
6月に開かれた「デジタル・ガバメント閣僚会議」に出席する菅氏(写真左) (c)朝日新聞社

 コロナ禍に国や自治体のアナログ対応が露呈するなか、菅義偉首相は行政のデジタル化を進める方針を打ち出した。カギを握るのはマイナンバーの普及だ。AERA 2020年10月5日号で掲載された記事を紹介する。

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 21世紀の日本で、まさか──。コロナ禍の中、行政の「アナログぶり」に絶句した人も多かったのではないか。

 日々発表される新規感染者数の集計では、保健所と自治体間でのPCR検査結果のやり取りにファクスを使い、紙ベースで件数をまとめていた。

 5月に始まったひとり10万円の特別定額給付金の支給ではマイナンバーカードを使ったオンライン申請が導入されたが、誤入力や二重申請を防ぐチェック機能が働かず、全国各地の自治体が大混乱に陥った。東北地方の自治体に勤める市職員は申請開始後の状況をこう説明する。

「オンライン申請情報を紙に出力し、一件一件住民台帳と突き合わせました。誤入力が多かったほか、同じ人が何度も申請する例や、本来申請できない世帯主以外からの申請もあった。それを目で確かめ、確認が必要になると申請者に電話します。オンラインによる負担軽減は感じられませんでした」

 当初は「郵送より早く受け取れる」とみられていたものの給付の遅れが相次ぎ、総務省によると6月1日時点で全国43市区町がオンラインでの受け付け自体を停止したという。

■サービス視点欠如一因

 行政のデジタル化が進まない要因は何なのか。電子政府の実現に取り組む行政情報システム研究所主席研究員の狩野英司さんは「行政事務のデジタル化が極端に遅れているわけではない」としつつ、こう指摘する。

「例えば基本的な行政情報のデータベース化などは進んでいて、今月には最後まで紙の戸籍を使っていた東京都御蔵島村が戸籍電子化に踏み切りました。省庁や地方自治体の部局内部では電子決裁などが導入されている例も多くあります。しかし、デジタルシステムに住民サービスという視点が欠けていたり、部局をまたいだ横の連携、国と地方といった縦の連携ができていなかったりする例が多く、結果として行政サービス全体のデジタル化が進んでいないのです」

 特別定額給付金の場合、マイナンバーカードへの対応が自治体レベルの住民サービスまで浸透していない段階で、無理をして申請への活用を進めたことで混乱が起きた。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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