「fishy」の3人も、人生のそんな曲がり角に立つ。そして親友とも言い難い彼女たちの曖昧(あいまい)な関係が、火花がスパークするような展開へ進める力になっていく。

 金原さんが描きやすかったのは、すべての物事をフラットに考えるユリだという。彼女の指摘はすがすがしいほど正しいが、残酷な真実をえぐり出すことも多い。一方で、3人のなかで金原さんが距離を感じたのは弓子だ。社会常識を重んじる彼女を古くさく感じるからだ。

「でも書き進めるうちに和解していって、書き上げる頃には、好きになっていました。苦手だったり、敬遠したいタイプの人物でも、彼らの視点で書いていくと、少しずつ共感できるようになる。自分の思い込みを破壊される感覚を弓子には感じました」

■人と人の分断感じる

 3人の会話で大きいのが、「言葉」の存在だ。メールやSNSで文字を介したやり取りが増え、些細な言葉ひとつにも神経をとがらせる現代の不安や依存が描き出されている。

 金原さんは6年のフランス滞在を経て2018年に帰国した。日本で暮らしていると、人と人の分断をより強く感じるという。

「同じような顔をしているのにわかり合えない。だけど、共存していくしかないという感覚がずっとあります」

 最近、捨て身で付き合わないといけないのかもしれない、と感じることもある。

「人が批判し合うケースが増えているように感じます。現代人は、人間としての一貫性を他人に求めすぎではないでしょうか。人は多面的な存在です。一面を責め立てたり、絶望的になったりせず、ゆるく距離を保つことができる関係性がすごく必要なのだと思います」

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2020年9月14日号