伊藤:武志でいる時間が長かった。武志はいい奴で、周囲のことも考えるから……。泣く芝居は苦手ですが、台本を読んだ時に初めて泣きました。いま思い出しても泣きそうなくらい。セリフを覚える時にも泣いて、クライマックスのシーンは何回練習しても涙が止まらない。面白い番組でも流しながらやらなきゃダメだとテレビをつけ、棒読みレベルで覚えました。つらかったですが、武志を作っていく上ではよかったと思います。ポジティブな意味でキツい経験でした。

 現在「弱虫ペダル」が公開中だが、来月は「宇宙でいちばんあかるい屋根」、10月には「とんかつDJアゲ太郎」と出演作の映画公開が続く。

伊藤:「宇宙で……」は昨年夏に撮影しました。すごく丁寧に撮った印象があります。どこにでもいる、普通の隣のお兄ちゃんを意識しました。ヒロインのつばめ(清原果耶)に見せる笑顔ひとつにしても、普通っぽさにこだわりました。

 登場シーンは多くはないが、バンジョーを弾くシーンがあり、ハッとさせられる。

伊藤:バンジョーは全く初めて触れる楽器でした。撮影前に数回、先生について練習しましたが、難しかったですね。なかなかキレイな音が出ず、腕や指がつりそうになりました(笑)。撮影の現場でも練習して、本番ではなんとか1曲弾けた、かな。「宇宙で……」では、僕が事故でけがをして、リハビリを兼ねて、つばめと一緒に松葉づえで歩くシーンがあるのですが、コルセットが硬くて脱着に苦労しました(笑)。骨折の経験がないし、松葉づえも初めてだったので、脇の下がこんなに痛くなるのか!と。真夏の撮影だったので、肌が出ている部分が真っ赤に日焼けしてとても痛かったです。コルセットした部分だけは当然日焼けせず、足を出して外を歩けないなと思いました(笑)。

 経験を積み、着実に成長している。目指すべき俳優の到達点はあるのか。

伊藤:幼稚園生だったある日、「ふぞろいの林檎たち」がテレビで流れていて、僕も見ていたんです。ドラマの内容は覚えていませんが、タイトルと中井貴一さんのことだけをずっと覚えていました。自分はそういう人になりたいなと思います。芝居が下手でもうまくても、嫌われたとしても好かれていたとしても、何かしらだれかの心に残っている人。実は、そう思ったのは、ここ1、2年なんです。でも、そうなれるよう、やるしかないと思っています。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年8月31日号