62歳年長の加藤九段とのプロデビュー戦から無敗のまま29連勝し、30年近く破られていなかった神谷広志八段(59)の28連勝をあっさり更新。さらに非公式戦ながらAbemaTV将棋チャンネルが2017年3月から4月に配信した「藤井聡太四段 炎の七番勝負」では、当時三冠だった羽生九段ら超強豪7人と戦い、ファンの度肝を抜いた。当時六段で現在叡王・王座のタイトルホルダーの永瀬拓矢二冠(27)に負けただけで、ほか6人を14歳の少年が蹴散らしたからだ。

 その後も公式戦で当時名人だった佐藤天彦九段(32)やA級棋士に勝つなどして史上初めて中学生で六段に昇進。高校生になって間もなく、竜王ランキング戦で4組昇級を決めたことで15歳9カ月の最年少で七段に昇格、16歳0カ月で通算100局の最年少記録を更新し、この時点での勝率8割5分は中原誠十六世名人と並ぶ歴代1位タイだった。19年度も順調に棋力を伸ばし、史上初の3年連続勝率8割以上を達成。そして高校3年生になった20年度、初挑戦でタイトルをさらい、二冠に輝いた。今期はここまで19勝3敗、全員が超のつく強豪である。野球なら、ルーキーリーグから毎年昇格し、メジャーリーグでも同じペースで勝ち続けて新人でサイ・ヤング賞を取るようなものだ。

 高校生にして、追われる立場になった。社会現象となり、将棋ファンならずとも老若男女が注目する人気者だ。今後さらに真価が問われる。

 羽生九段のライバルで、難病の末、がんを患い29歳で夭折した村山聖九段(追贈)は、病状の進行で順位戦B級1組に降格しながら手術を経て1期でA級に復帰した。しかし、すぐにがんが再発、絶命する5カ月前の1998年3月30日、最後に対局したのが木村九段だった。駒を握る棋士たちの歴史は盤上で連なり、見る人々に悲喜こもごものドラマを運ぶ。藤井聡太の物語は、これから始まる。(編集部・大平誠)

AERA 2020年8月31日号