「国内の感染症対策は、感染研(国立感染症研究所)と保健所が感染者を隔離してその周囲の人たちを検査するという仕組みになっています。これは、戦前は衛生警察と言われる警察の業務だった経緯もあり、現在の医療システムとは切り離されているとも言えます。感染研や保健所にはキャパシティーがないため、大量の検査をこなすことはそもそもできません」

 英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授(公衆衛生学)もこんな指摘をする。

「一つはPCR検査を行政検査という枠にはめたことです。外国ならいわゆる上気道感染の識別診断という形で通常の医療の中で行われますが、日本は感染症法に基づく行政検査にすることで、医師の判断で通常の検査ができませんでした」

 厚生労働省の組織と利権の問題だと指摘する声もある。厚労相時代に新型インフルエンザの流行を経験した舛添要一氏は、安倍首相が目指したほど検査数が十分に増えていないことについて、「加藤(勝信)厚労相に直言できるブレーンがいないのでは」との見方を示す。

「民主党から自民党に政権が戻ったとき、厚労省でも能力のある人たちが『お前ら民主党に協力したな』とずいぶんパージされました。長期政権になって、大臣にモノが言える役人がいなくなったようです」(舛添氏)

 しかし、そもそも「増やせ」という総理の意向があるのに、なぜ大臣に言えないのか。

「今は状況が違います。コロナ対応の失敗が続く中で『安倍は終わり』と思っている官僚は多い。検査を大幅に増やすということは、感染研の情報独占体制を脅かしかねないので、厚労省の官僚たちは、安倍首相を守るより、自分たちの利権を守るべきだと考えたはずです」(舛添氏)

 前出の上理事長も、少ない検査数に対する国民の批判と“公衆衛生ムラ”の情報独占のバランスを取る苦肉の策としてできたのが、民間医療機関への検査の業務委託だとみる。

ここまでの3氏はいずれもPCR検査の拡充を訴えているが、別の考え方もある。

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