「まず被害者と話がしてみたいと思った。同時に教会という組織の仕組みを知ることが重要だと感じた。教会内部で起こった事実を正確に描くことが重要だから」

 映画はリレーのバトンを渡すように、3人の人物の過去と告発への決心の過程を追う形で展開する。

「アレクサンドルは教会との闘争を、フランソワはメディアとの闘争を、そしてエマニュエルは司法との闘争を象徴する存在だ。私は彼らの物語を映画で芸術的に解釈する役割にいると思う」

 被害者と家族との関係を繊細に描いたシーン、被害者が弱さを隠さず自分の心を開く勇気、それによって仲間と団結していく過程が熱く胸を打つ。心の奥の暗闇に目を向けるようなテーマであるにもかかわらず、観る者を前向きな気持ちにさせてくれるのだ。

「被害者が私を信頼し、虐待の体験を描く許可をくれたことに対して責任を感じた。これまでマスコミや他人に打ち明けなかった事実、個人の秘密を公開するような作業だったから。彼らに完成作を気に入ってもらい、とても感激しているんだ」

◎「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」
フランスを震撼させ、現在も裁判が進行中の「プレナ神父事件」の真相に迫る。公開中

■もう1本おすすめDVD「スポットライト 世紀のスクープ」

 米ボストンにおけるカトリック教会神父の性的虐待事件を、地元の新聞であるボストン・グローブの調査報道チーム「スポットライト」班が暴いたのが2002年。その実話をベースに描いたドラマが本作だ。彼らの報道がきっかけで、世界各地で同様の事件が発覚することになる。

「グレース・オブ・ゴッド~」が被害者の人生に着目した映画であるのに対し、こちらは新聞記者の目線から事件の真相に迫っていく。たった4人のチームが、カトリック教会という巨大な組織に挑戦を挑み勝利する。スクリーンに焼き付けられた、記者としての執念が共感を呼ぶ。

 米アカデミー賞作品賞と脚本賞を受賞(6部門ノミネート)したほか、数多くの賞を受賞した本作。この映画の意図ではないだろうが、いま改めて観ると、デジタル革命によって劇的に変化したマスコミの現在の環境との違いを痛感する。まだ20年も経っていないにもかかわらず、まるで遠い昔のことのようだ。マイケル・キートン、リーヴ・シュレイバー、レイチェル・マクアダムス、マーク・ラファロやジョン・スラッテリーなど、キャスト陣の説得力ある熱演も素晴らしい。

◎「スポットライト 世紀のスクープ」
発売元・販売元:バップ
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年7月27日号