AERA 2020年7月27日号より
AERA 2020年7月27日号より

 独ベンチャー企業発の「DeepL翻訳」が、グーグル翻訳より高評価を受けている。AERA 2020年7月27日号は、その実力を検証した。

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「もう、単に英語ができるだけの翻訳者は生き残れません。(インターネット上で文章を翻訳できる)翻訳エンジンでかなりのレベルの訳ができる時代になってしまい、専門分野を持っているか、ネイティブと同程度の知識がないと仕事ができなくなると感じています」

 こう話すのは、英語翻訳も手がけるフリーランスの男性(34)だ。男性の元にはここ数年、日本語をゼロから訳すのではなく、クライアントが翻訳エンジンで訳したとみられる英文を校正する仕事が舞い込むようになった。「そこそこ正確」なものが多く、当然ながら仕事の単価は下がる。以前は時折あった「意味さえ通じればいいから早く」というオーダーはほぼなく、それらは翻訳エンジンで事足りているとみられる。

 翻訳エンジンの精度を大幅に引き上げたのは、2016年にグーグルが自社の翻訳サービスに導入した「ニューラル機械翻訳」という技術だ。

「統計的機械翻訳」と呼ばれる従来型の機械翻訳では、人間が大量の単語やフレーズについて元の言語と翻訳先言語の対訳を用意した上で、原文と訳文のデータを学習させる必要があった。

 一方ニューラル機械翻訳は、人間の脳神経回路をまねたネットワーク回路が自ら学習しながら訳語を作り出していく、AIによるディープラーニング技術だ。対訳データさえあればAI自身が二つの言語を学習し、翻訳できるようになる。従来よりも膨大な量のデータを学習させることができるため、より流暢な訳文を生成できる。

 そしていま、グーグル翻訳をしのぐと言われるのが独のスタートアップ企業DeepL社が17年に始めた「DeepL翻訳」だ。今年3月、日本語にも対応し、英・仏・独・スペインなど11言語で使用できる。有料版もあるが、1回5千文字までなら無料。日本語版リリースに際して同社が行った目隠しテストでは、グーグル、マイクロソフト、アマゾンの翻訳サービスと比較して最も高い評価を得たという。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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