なぜなら、脳をコピーするには神経同士の接続の有無だけでなく、接続の強さまで読み取る必要があるからだ。接続の有無をコピーしただけでは、学習前の最新AIのようにでたらめな振る舞いしか期待できないという。脳を薄くスライスすることで接続の有無をぎりぎり読み解くことができたとしても、個々の接続の「強さ」を読み取るには、さらにその1万倍以上の精度が求められる。まさに、神(意識)はディテール(神経同士の接続の強さ)に宿るのだ。

 渡辺さんが目指すのは、あらかじめ機械にニュートラルな意識を宿し(ステップ1)、その意識と自身の意識を一体化し(ステップ2)、さらに、それを“自分色”に染める(ステップ3)ことだ。これなら、自身の死という断絶を経ることなく、シームレスに意識をアップロードすることができる。

 順を追って見てみよう。まず必要な「ニュートラルな意識を宿す機械」とは、どのようなものなのか。渡辺さんは「使えるものは何でも使うべきです」と話す。例えば、前出の、死後の脳のスライスから読み取ったヒト脳の配線構造もそうだ。そこから“赤ちゃん機械”をつくり、意識にまつわる様々な仮説をもとに学習のしくみを加え、さまざまな体験をさせる。視覚的な意識の構築なら、何万時間もの動画をみせて、必要とあらば仮想的な身体を与えてもよい。

 そしてステップ2。超高密度の情報の読み書きが可能なBMIを右脳と左脳の間に挟み込み、人間の右脳と機械の左脳、人間の左脳と機械の右脳を接続する。今日のデジカメに搭載されている程度のセンサーで、生体脳同士のもともとの神経接続をすべて再現できるという。意識の一体化が確認されれば科学の一大ブレークスルーであると同時に、黄泉の国への扉がついに開くことに相当する。

 ステップ3は、言い換えると「記憶の転送」だ。脳の意識と機械の意識が一体化しても、この時点での機械の意識は、いわば、誰のものでもないニュートラルな状態で、本人の過去の記憶は、脳の中にしか存在しない。機械の中で目覚めたとき、「ああ、無事に移植されたんだ」と実感するためには、記憶の転送が不可欠になる。

 記憶は脳内の「海馬」という部位に一時的に保持され、睡眠中に「大脳皮質」に転写されると考えられている。渡辺さんは同様の仕組みを機械に組み込み、意識が一体化されていることを最大限に生かすことで、覚醒中の記憶の想起、睡眠中の夢や白昼夢、さらにはBMIを介した生体脳への電気刺激を通して、記憶を機械側に転送することができると考えている。脳と機械を長く接続すればするほど、多くの記憶が転送されるというわけだ。

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