本作のもうひとつのおもしろさは、アルゼンチンやウルグアイに近い、ブラジル南部の街という舞台が持つ特徴だ。独特のユーモアセンスやメランコリー、叙情性を感じることができる。学校では公用語のポルトガル語のほかに、英語とスペイン語を習う。ビアがスペイン語を理解するのはそのためだ。彼らは歴史の傷も共有している。エルネストには独裁政権下のウルグアイを逃れた過去がある。

「ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイには軍事独裁政権の時代があり、国にはその時々で弾圧を逃れた人々を受け入れ合ってきた歴史があります。エルネストとビアの間にある“兄妹愛”のようなものは、そこからきているのです」

 複雑な糸で編まれた物語の終着点はやさしく、美しい。

◎「ぶあいそうな手紙」
エルネストは、若いビアにうながされ、初恋の人に手紙の返事を書くことに──? 7月18日から順次公開

■もう1本おすすめDVD「幸せなひとりぼっち」

 孤独な老人と若者の出会いは多々あれど、そこにユーモアと悲哀のスパイスが感じられる映画は心に残る。スウェーデン発「幸せなひとりぼっち」(2015年)もそんな作品だ。

 主人公オーヴェは孤独な中年男。規律に厳しく気難しい彼は、近所でも「口うるさい変人」と鼻つまみ者だ。唯一の理解者だった妻に先立たれた彼は、あとを追おうと自殺を図ろうとする。が、ひょんなことから向かいに越してきた騒がしい一家と関わることになり、それをきっかけに、だんだんと近所の人々と交流していく。

 北欧ならではの乾いた笑いが随所にちりばめられ、スウェーデンでは5人に1人が観たというヒット作だ。

 武骨で偏屈なオーヴェだが、向かいの移民系の一家やゲイの少年など、マイノリティーにも偏見なくフラットに接する。その理由には実は彼の大切な妻、そして過去のある出来事が大きく関わっていた。そんな彼の過去が明らかになるにつれ、じわじわと彼を好きになってしまう。

 彼が暮らすのは平屋の戸建てが並ぶ共同住宅だ。つかず離れずなご近所の距離感もいい感じでうらやましい。

◎「幸せなひとりぼっち」
発売元:アンプラグド
販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年7月20日号