「幼い頃から音楽の世界の一部になりたいと感じていた。ずっと音楽が唯一の関心事だった。演技は頭になかった。ところがロンドンに移り、演劇学校で4週間シェークスピアコースを受講し、すっかり演技の虜(とりこ)になったの」

 本年度の英国アカデミー賞授賞式でこの曲を歌い、アル・パチーノやレネー・ゼルウィガーといった錚々(そうそう)たる俳優を圧倒した。

「機会があれば、これからも歌を続けていきたい」

◎「ワイルド・ローズ」
夢を追い続けるのか、家族のために生きるのか。ローズの決断は……。公開中

■もう1本おすすめDVD「はじまりのうた BEGIN AGAIN」

「ワイルド・ローズ」がグラスゴーへのラブレターだとすれば、本作はニューヨークへのラブレターだ。

 英国人である主人公グレタ(キーラ・ナイトレイ)はシンガー・ソングライター。有名ミュージシャンのボーイフレンド(アダム・レヴィーン)とともにニューヨークに引っ越すが、彼の浮気が発覚。音楽仲間のスティーヴ(ジェームズ・コーデン)のアパートに転がり込む。

 スティーヴは失意のグレタを励まそうとライブスポットに連れていき、グレタを無理やりステージに上げる。そのパフォーマンスを偶然見ていたのが、音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)。グレタの才能に触発されたダンは、ニューヨークの街中で次々とゲリラレコーディングを敢行し、グレタのデビューアルバムを制作する。

 主人公の自分探しの旅というテーマに加え、家族の絆、友情の尊さなど、多くの面から心の琴線に触れる。音楽産業に対する辛口批判もちょっぴり。ジェシーのそれとは全く異なるが、音楽の経験はないというキーラ・ナイトレイの、ほんわり、じんわり、静かに心に響くパフォーマンスも魅力的だ。

◎「はじまりのうた BEGIN AGAIN」
発売元・販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年7月6日号