公民権運動やベトナム反戦運動ではボブ・ディランやマーヴィン・ゲイなど多くのアーティストがその応援歌を奏で、80年代にはブルース・スプリングスティーンが労働者の苦境に寄り添い、マドンナが女性や同性愛者を勇気づけ、ヒップホップは「黒人のためのCNN」として黒人社会が置かれた差別や貧困を告発してきた。思想的には圧倒的にリベラル派が多い。

 例外が南部発祥のカントリーミュージック。ファンの6割が共和党支持と言われ、大物歌手が共和党大会に友情出演する。カントリー畑出身のテイラー・スウィフトが突然、民主党支持を打ち出したとき、賛否両論が巻き起こったのは、コアファンに白人至上主義者も含む保守層が含まれていたためだ。

 現在の米国の分裂を反映し、リベラルなエンタメ界への評価も分かれる。2018年の世論調査では一般市民の49%がハリウッドは一般の考え方とズレていると回答。SNSや匿名掲示板での誹謗中傷の多くは発言内容が気に入らない反対派からとみられている。トランプ大統領は自分を批判したメリル・ストリープを「過大評価された」俳優とケチをつけ、スウィフトを「25%嫌いになった」と恨みがましくツイート。エンタメ界全体を敵とみなし、「(庶民の気持ちがわからない)ハリウッドのエリート連中」と攻撃する。

 苦労人俳優ジョージ・クルーニーは反論する。

「僕が労働者の気持ちがわからないって? 僕は保険の外交員もやったし、婦人靴も売った。いまの政治は米国人として屈辱だ。全力で抵抗していくよ。かかってこい!」

 半世紀かけてつかんだ表現の自由をスターたちが手放すことはなさそうだ。(ライター・鈴木あかね)

AERA 2020年6月15日号より抜粋