N95タイプの代表格で、最も高値で取引されるという米3M社の「1860」。かつては1枚100円程度だったが、700円超の値がつくことも(撮影/編集部・大平誠)
N95タイプの代表格で、最も高値で取引されるという米3M社の「1860」。かつては1枚100円程度だったが、700円超の値がつくことも(撮影/編集部・大平誠)

 深刻な品薄から一転、街のあちこちで投げ売りされるようになった使い捨てマスク。一方、医療用は高騰が続く。世界的な需要増に加え、投機目的の購入も原因だ。AERA 2020年5月25日号で掲載された記事を紹介する。

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 世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はマスクを生活必需品に変え、地球規模で需給バランスを崩した。国内では洗って繰り返し使える布マスクの存在が浸透したこともあって一時ほどの品薄状態からは脱却して価格も下がってきた。一方で感染者に間近で対応する医療現場で必要な高機能製品は品薄が解消されずに価格も高止まりし、二極化の様相を呈している。

「3M社のN95微粒子用マスク『1860』の正規品は、今や我々の間では宝くじと呼ばれています。利幅が大きくなっているけど、それだけ入手困難だということです」

 大型連休が明け、やや人出の戻ってきた都内のターミナル駅近くの喫茶店で、ブローカーは慌ただしそうに答えた。元々は化粧品の輸入販売を手がけていたが、取引先に頼まれたのをきっかけに、マスクを扱うようになって約3カ月になる。取材の合間にも、携帯電話にひっきりなしにマスクや防護服などの問い合わせのメールや電話が入る。ブローカーが続ける。

「1月の終わりごろ、医療機関に納めるために頼まれて集めました。この頃はまだ普通のサージカルマスクの需要が大きく、『1860』は見向きもされていなかった。国内の倉庫にあった100万枚のストックを単価96円で仕入れ、100円で売りました。4円の利ざやを協力して動いた8人で分け合う地道な商いでした」

 ところが今や、「1860」の仕入れ単価は450円に跳ね上がり、売値は700円を超える超プレミア品になっているという。

「単価700円で2千万枚でも買うというバイヤーもいるぐらいです。1枚あたり250円の利ざやをさっきの8人で分けたとしても1枚30円以上。掛け算すれば6億円、だから宝くじ。実際はもう入らないので、偽物が出回ったり金だけ取って行方をくらます詐欺業者が出てきたり、堂々巡りの『3Mバトル』が続いている状況です」

 在日米軍が必死で集めているという情報が、過熱に拍車をかけているようだ。関西地方の別のブローカーが言う。

「複数の広域暴力団の直系組織がシンジケートを組んで『1860』を単価500円で5千万枚仕入れようと実際に動いていました。予算が250億円規模にもなるのでどこまで本気かわかりませんが、彼らを含めた投機目的の勢力が国境をまたいでこのバトルに参戦しているのは間違いありません」

(編集部・大平誠)

AERA 2020年5月25日号より抜粋