資材も不十分だ。3日に1度は当直も入るのに、使い捨ての医療用マスクは週に1枚しか支給がない。フェースガードも足りないため、眼鏡にクリアファイルを貼りつけ自作した。
感染拡大を防ぐため、病院が借り上げたホテルで寝泊まりしている。家族に次に会えるのはいつか、わからない。
「現場の院生の心身は限界に近い。これだけのリスクを前に、なおこのような働き方をしろというのでしょうか」(同)
全国医師ユニオンは4月16日、加藤勝信厚生労働相に労働環境の改善を緊急要請した。
植山直人代表は言う。
「感染者の多い地域の大学病院では似た状況にあると思います。大学病院は賃金が安くて文句を言えない立場の無給医を新型コロナ対応に使っています。ある大学病院では、上司が『感染しても労災などにはならない』と言い放ったと聞いています」
ただし、「労災にならない」は思い込みだ。医師の労務問題に詳しい共永総合法律事務所(東京都)の荒木優子弁護士(34)は「雇用契約を結んでいない場合や使用者が労災保険の加入手続きを怠っている場合でも、労働の実態があれば、労災保険の給付請求ができる。だが、制度を誤解し、請求できないと思い込んでいる人は多い」と指摘する。
慶応大は本誌取材に「市中感染が増加する中、定められた診療時間の範囲を超過した場合には、その分の手当を支給している。労災は、臨床業務に携わるすべての職位に対して適用されるものと考えている。新型コロナ診療については、平常時の想定とは異なることも考えられるので、随時、対応策を検討していく」とコメントした。
無給医の多くは30代で、8割が家庭を持っているという。
「新型コロナ担当になりアルバイト収入が断たれると、遠からず生活が破綻するケースもありえます」(植山代表)
現場への影響は計り知れない。
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年5月18日号