AERA 2020年5月18日号より
AERA 2020年5月18日号より

 新型コロナウイルスの診療現場には、大学院生として在学中の医師も含まれている。感染への懸念から家族に会えず外部の仕事もできず、心身共に追い詰められている。AERA 2020年5月18日号から。

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 診療にあたる現場の医師には、十分な給与が支払われていない「無給医」状態にある大学院生も含まれている。

 都内の30代男性医師の元に、4月中旬、院生として在籍する慶応大学病院から連絡がきた。新型コロナウイルスの外来、入院患者の診療について、「大学院生の参加のお願い」と1枚の文書にまとめられていた。

 大学病院と院生で交わす雇用契約書はあると聞いているが、見たことはない。感染した場合、手当はあるか、労災保険は適用されるかもわからない。「万一、感染して死んでも補償はない」と絶望的な気持ちになった。要請を断れば、博士号を取れなくなるかもしれない。教授ににらまれたら、先々どうなるかという不安もよぎる。

「ほとんどの院生が駆り出されました。新型コロナ対応をする医師のうち、院生が3割を占めています」(男性)

 男性の時給は東京の最低賃金ぎりぎりの1100円。最前線で働くことへの「危険手当」もない。

 アルバイトをする道も断たれた。外部の病院で外来や当直を行うアルバイトが生命線で、生活費や学費を稼いできた。だが、感染リスクがあるため、男性は今までのように研究や診療はできず、アルバイトもできなくなった。このままでは「大学病院をやめるしかない」と男性は言う。

 かねて、無給医について、文部科学省は全国の大学病院に適切な賃金の支払いと待遇改善を求めているが、実際は各大学の裁量に任されている。今も給与のない大学もあるという。慶応大では昨年まで院生への手当は月3万円だった。

 男性は朝から夕方まで1日約8時間、重症者の回診、感染が疑われる人の外来診療をする。

「極度のストレス状態で、余裕もなく職場は殺伐としている。感染の恐れがあるから、同僚と日常会話もできない」(男性)

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