冒頭の女性の場合、会社員の夫にも、ADHDと、ASDの一種であるアスペルガー症候群の傾向がある。夫は女性の些細なミスにも、「死ね」など激しい言葉で罵倒する。女性が「ADHDと診断されれば、薬物治療もできるって。受診しようかな」と相談しても、「努力が足りないのに薬なんて金の無駄だ」と取り合ってくれない。こうした態度も悪気があるからではなく、「他者の気持ちを想像するのが苦手」というアスペルガー症候群の特性から。女性は発達障害のことを調べる中でそう理解できるようになったが、胸の内は苦しい。

「子どもは療育に通っていて、少しずつ状態が改善しています。でも夫には自覚がないし、私自身のことも含め、家族のことを相談したくても、どこに行けばいいのかわからない」

 子どもと親双方に発達障害があるというと、育て方や遺伝との関連が気になる人も多いだろう。発達障害クリニック附属発達研究所所長の神尾陽子医師はこう指摘する。

「発達障害の原因はまだ特定されていませんが、先天性であることは明らか。親の育て方が原因という考え方は完全に否定されています。生まれた後の生活習慣や環境は症状を悪化させることはあっても『原因』にはなり得ません」

 遺伝についてはどうか。

「遺伝的要因はあります。ただし、発達障害につながる特定の遺伝子があるわけではありません。複数の遺伝的な素因と、母親の胎内にいる時の環境要因──例えば妊娠初期に風疹などのウイルスに感染したとか、さまざまな要因が複数重なり相互に作用した結果、何人かに一人の割合で脳の発達に変化が生じると考えられています」(神尾医師)

 発達障害は先天的なもので、親や子どもの努力不足でも、性格の問題でも、しつけのせいでもない。

(編集部・石臥薫子)

AERA 2020年4月13日号より抜粋