TCC代表の山本さんは栗東市で生まれ育ったが、子どもの頃は馬を見たこともなかったという。「馬を身近に感じてもらうことが第一歩」。左はメイショウナルト(写真:TCC Japan提供)
TCC代表の山本さんは栗東市で生まれ育ったが、子どもの頃は馬を見たこともなかったという。「馬を身近に感じてもらうことが第一歩」。左はメイショウナルト(写真:TCC Japan提供)
TCCのオリジナルグッズ。グッズの売り上げの一部が、引退競走馬の支援金となる(写真:TCC Japan提供)
TCCのオリジナルグッズ。グッズの売り上げの一部が、引退競走馬の支援金となる(写真:TCC Japan提供)

 毎年競馬界から引退する約6千頭のサラブレッドのなかには行き場を失い、殺処分という形で最期を迎える馬も少なくない。この現状を変えるべく、サラブレッドの「転職活動」を支援する取り組みが始まっている。AERA 2020年3月23日号では、引退競走馬の現状などを取材した。

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 手慣れた様子で馬をブラッシングし、悠々と乗りこなす子もいれば、恐る恐るニンジンを差し出すなど、馬との距離を測りかねている子もいる。この日、滋賀県栗東(りっとう)市にあるTCC Therapy Park(セラピーパーク)では、さまざまな年齢の子どもたちが馬と過ごす時間を楽しんでいた。

 施設がオープンしたのは、昨年5月。障害のある3~18歳の子どもたちを対象に、馬とのふれあいや乗馬体験を心身のリハビリに役立てる「ホースセラピー」を取り入れた福祉サービスを提供し、1カ月でのべ約400人の利用者を受け入れている。

「もともと感情のコントロールが苦手で、よく癇癪を起こしていたのですが、ここに来るようになってそれが減り、対人関係のトラブルもなくなりました」

 こう話してくれたのは、自閉スペクトラム症を抱える田中典汰(てんた)さん(10)の母・智香(ちか)さん(42)。1カ月に1度、大阪府高槻市から通うようになって1年近く経つ。典汰さん自身が「馬に乗ってみたい」と希望したことがきっかけだ。

「最近、学校でイライラしたときは、飼っているウサギに会いに行くそうです。馬とのふれあいを通して、自分の心を落ち着かせる方法を見つけたんだと思います」(智香さん)

 事業の責任者である理学療法士の山本妃呂己(ひろみ)さん(41)はこう語る。

「乗馬を通して体幹が安定するという身体的な効果もありますが、それ以上に馬に乗れたことで自信がつき、表情が明るくなる、積極性が出るといった心理的な効果を感じます」

 セラピーパークでの乗馬は「馬と過ごす」活動の一環だ。他の子どもたちと一緒に馬小屋の掃除や餌やりも行うことから、共同作業のなかで馬を介したコミュニケーションが生まれたり、思いやりの心が育まれたりするという。

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