感染が広がる新型コロナウイルス。差別や偏見で風評被害も出始めている (c)朝日新聞社
感染が広がる新型コロナウイルス。差別や偏見で風評被害も出始めている (c)朝日新聞社
日本災害医学会も、対応に携わる医療関係者への「不当な批判」に抗議の声明をだした (c)朝日新聞社
日本災害医学会も、対応に携わる医療関係者への「不当な批判」に抗議の声明をだした (c)朝日新聞社

 脅威は感染拡大そのものだけではない。感染者の周囲や医療者に対し差別や偏見が広がっている。AERA2020年3月9日号から。

【写真】日本災害医学会が出した抗議の声明はこちら

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病院で働いている人や、その家族がばい菌のように扱われています。いわれのない差別です」

 相模原中央病院(神奈川県相模原市)の小倉嘉雄事務長(63)が、アエラの取材に対して憤りをあらわにした。

 同病院では、2月17日、勤務する40代の女性看護師が新型コロナウイルスに感染していたことを公表した。死後に感染が判明した80代の女性が同病院に入院していたこともわかり、周囲で一気に反応が起き始めたのだという。

 看護師の感染で病院は対応に追われた。ホームページでは外来診療の休診や患者の面会の中止などを公表した。

「当初は院内の態勢を整えるので精いっぱいで、なかなか職員や家族の声まで聞ける状態ではなかったのですが、外来の中止をホームページに出した17日あたりから反応が出てきたと思います」(小倉事務長)

 小倉事務長によると、保育園や幼稚園で、病院スタッフらの子ども5人について、登園を拒否される事案があったことをこれまでに把握しているという。

「敷地内に入らないでください」

「しばらく自宅待機でお願いいたします」

 保護者は施設側からこんな言い方をされたという。他にもある。職員の配偶者などが勤め先から自宅待機を命じられている事例も、7例確認されている。自宅待機となると、給料も支払われないケースがある。職員やその家族の感染が確認されている訳でもない。感染者を治療した病院や感染者が出た地域の人々すべてを排除していては、医療はもちろん、社会自体が成立しなくなることは明らかだ。小倉事務長は「不当で非人道的な扱いだ」と訴える。

 新型コロナウイルスをめぐって、問題となっているのは感染そのものだけではない。差別や偏見、風評被害。「さっさと帰れ」「中国人を入国禁止に」など、国内では早い段階でSNS上に中国の人たちに対する排除感情が表れた。ヨーロッパなどではその対象は、日本人や韓国人を含む黄色人種だった。すでにいつ誰が感染してもおかしくない状況で、さまざまな属性の人たちが複雑な感情をあらわにし始めている。それは、一般市民だけではない。

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