群馬県前橋市の赤城病院で院長を務める関口秀文医師(38)は今回、発生源とされる中国湖北省武漢市からチャーター機で帰国した人の滞在施設や、集団感染が起きた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で、災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動に参加した。

「いずれもはじめの1隊目として現場に入ったのですが、特に感染者が大量に出たクルーズ船のときは、自分の病院の職員に不安が強く出ていたのを感じました」(関口医師)

 クルーズ船では、2回に分けて計5日間の活動に携わった。3700人を超える乗客乗員がいる船内では、埋もれている「SOS」をいかに拾い上げて医療につなげるかが最も大切な任務となる。船内にいるのは国籍も立場も違う人たちだ。その「SOS」を見つけ出す仕組みを考えついても、さまざまな理由から意見が通らないこともあった。

 心身ともに負担の大きい任務から前橋の病院に戻ってみると、職員が1人、辞めていた。

「要するに、これまで経験してきた通常の災害では起こらなかったことが起きていた」(同)

 予兆はあった。2回目の派遣に出ると決まったとき、すでに報道は過熱していた。「職員側は、結構ざわついたんです。『また行くの?』と」(同)。出発前には院内で緊急の会議も開き、現場での感染防止対策や活動などについて説明もしていた。

 関口医師は言う。

「ルールを守って活動しているのに、という気持ちはありますが、辞めた職員の気持ちを察すると理解できる部分もあります。そこにあるのは、視点の違いだと思います。医療は危険と常に隣り合わせです。見る場所が違うと、見えてくるものも違うのだろう、ということでしょうか」

(編集部・小田健司)

AERA 2020年3月9日号より抜粋