完成後も改良は続いていて、高校野球のような金属音を再現したいと、野球用具大手のミズノに特別に40センチの金属バットを作ってもらった。フェンスも車いすから打球が見やすいよう、透明なものに変更した。

 2年近く、自宅でひとり製作してきたが、本格的な野球盤を作るため製作費が必要になった。中村さんに子どもたちから送られた動画の中で、陽広くんは「野球がやりたい」と語り、話すことができない子は思いを紙に書いて掲げていた。そのビデオメッセージとともに会社に提案し、事業として採用された。

 1月19日に都内で行われた試合には、陽広くんが通う都立小平特別支援学校の子どもたちやSNSなどで開催を知った人らが青赤2チームに分かれて参加。開始前に両チームが円陣を組んで「オー」とこぶしを上げた。

 打球がアウトの穴に入って悔しがる姿や、外野までボールが転がり喜ぶ姿。ベンチではホームランやヒットの選手をハイタッチで出迎え、「ナイスバッティング」と声を掛け合った。青チームの監督を務めた小平特別支援学校教員の桑原真明さん(26)は言う。

「チームスポーツで仲間と喜怒哀楽を共有することは、この子たちにはとても貴重な機会。今日は学校で見せる顔とまた違う顔を見せてくれた」

 ベンチの後方では親たちがメガホンを手に応援を続けた。本塁打2本と三塁打と猛打賞の活躍だった清水望杏(のあん)さん(21)の母・裕子さん(53)は、

「今日は考えてもみなかった経験ができた。可能性を広げられる勇気をいただいた」

 と感慨深げ。陽広くんの母・妃路子(ひろこ)さん(51)は言う。

「子どもに障害があると親子で一緒にスポーツをすることや応援することをあきらめている人は多くて、こうして思い切り息子を応援できることがうれしい。ユニバーサル野球は親たちへのプレゼントでもあるんです」

 試合後、陽広くんは「試合、楽しかった」と充実感をにじませ、「全国のみんなとやりたい」と次の夢を語った。

 健常者とほぼ同じルールで行う身体障害者野球のチーム「千葉ドリームスター」の代表、笹川秀一さん(48)は言う。

「障害者向けのサッカーにはブラインドサッカーや、足を切断した人や脳性まひ者向けなどがあるけど、野球は身体障害者野球一つだった。新しい野球が誕生して、これまで楽しめなかった人に野球の楽しさを味わってもらえたらいい」

 各地で体験イベントを開催していて、今年中に全国大会の開催を目指しているという。(編集部・深澤友紀)

AERA 2020年2月17日号