副顧問から呼ばれた際に、ボイレコのスイッチを入れて上着のポケットに入れた。長時間にわたって理不尽に罵倒する声はすべて記録された。

「おまえのお母さんにそういうふうに言われたり、何か事実をねじまげて伝えられてさ。全然違うことになっているのはさ、何で? はっきり言うけどさ。おまえ、このまま社会に出たらとんでもないことになるよ」

 40分ほどの説教は書き起こされ、A4シート7枚に。親たちはそれを学校に提出して、教育委員会にも改善を求めた。

 学校やスポーツ現場のパワハラに詳しい弁護士の宗像雄さんは言う。

「パワハラに関して、親子が泣き寝入りしなくなった傾向を大いに感じている」

 理由として宗像さんが挙げたのは2点。一つは18年に起きた女子レスリングの伊調馨選手へのパワハラ問題で、監督が一時的とはいえ、その座を追われたこと。こうした事実が、訴える側の成功体験になった。二つ目は、スマートフォンなどで録画・録音しての証拠確保が容易になったこと。SNSなどで拡散できるため「最後は社会に訴える」という選択肢ができた。

 声を上げたからといって、セクハラやパワハラがすぐに改善されるわけではない。それでもパワハラ被害を受けた野球部の生徒の母親(50代)は言う。

「立ち上がってよかった。本人はかなり強くなった。悪いものは悪いと言えるようになったのではないか」

 ただ、部内で親の分断を避けられないのも、また事実だ。

「部の中に派閥を作りたいわけじゃない。嫌だけど顧問には言えない、という親には押しつけません。おかしいよね、という気持ちだけ共有しようねと、ゆるく繋がっていきたい」

 声を上げることで、少しずつ現場が変わり始めている。(ライター・島沢優子)

AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号より抜粋