ほとんど寝る時間もなく働いて家族との団欒(だんらん)が持てないとはどういうことなのか。日本の「働き方改革」も要注意だ。

「(こうした働き方の我慢できない現状は)英国だけではなくEUでも、世界中で問題になっているのではないか。私たちは結託して、個人が豊かな人生を送れるように、何かしら動かなければいけないと思います」

◎「家族を想うとき」
企業の理不尽なシステムを問う。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開中

■もう1本おすすめDVD 「ケス」

「家族を想うとき」のラストシーンを見て、初めてケン・ローチ監督作品を見たときの衝撃を思い出した。それが、長編2作目「ケス」(1969年)だ。

 少年ビリーは炭鉱で働く年の離れた暴力的な兄と母と3人暮らし。父親は蒸発して家庭は貧しく、ビリーは新聞配達をしながら暮らしている。勉強も運動も苦手で学校にも居場所がないビリーがある日、ハヤブサのひなを見つけて持ち帰る。彼はひなにケスと名付け、1人で世話をしながら絆を深めていくのだが……。

 家族の愛を実感することなく、友人のいないビリーにとって、ケスを一生懸命育てようとする思いは熱い。勉強が得意でないはずの彼が、難しい専門用語で書かれた本さえ読み込み、育て方や訓練方法を学んでいく。

「ケスはペットじゃない、僕の周りを飛んでくれているだけでうれしいんだ」

 ケスを育てることで孤独だった少年の世界に光が差す。ケスは唯一の親友であり、希望となる。だが、現実世界は容赦がない。その結末は、今も忘れられない映画として記憶に残る。以来、ローチ監督作品は見ずにはいられない映画となった。

◎発売・販売元:20世紀フォックス
ホーム エンターテイメント ジャパン
価格1419円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年12月23日号