Ken Loach/1936年6月、英国生まれ。オックスフォード大学卒。67年「夜空に星のあるように」で長編映画監督デビュー。「ケス」が国際映画祭で注目されて以後、世界三大映画祭で数々の賞を受賞。一貫して労働者や社会的弱者に寄り添う作品を撮り続ける (c)Kazuko Wakayama
Ken Loach/1936年6月、英国生まれ。オックスフォード大学卒。67年「夜空に星のあるように」で長編映画監督デビュー。「ケス」が国際映画祭で注目されて以後、世界三大映画祭で数々の賞を受賞。一貫して労働者や社会的弱者に寄り添う作品を撮り続ける (c)Kazuko Wakayama
「家族を想うとき」/企業の理不尽なシステムを問う。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開中(写真:Joss Barratt, Sixteen Films 2019)
「家族を想うとき」/企業の理不尽なシステムを問う。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開中(写真:Joss Barratt, Sixteen Films 2019)
「ケス」/発売・販売元:20世紀フォックス、ホーム エンターテイメント ジャパン、価格1419円+税/DVD発売中 (c)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
「ケス」/発売・販売元:20世紀フォックス、ホーム エンターテイメント ジャパン、価格1419円+税/DVD発売中 (c)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【画像】映画「家族を想うとき」の場面カットと「もう1本 おすすめDVD」はこちら

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 前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年)で、「人を人とも思わない。人を辱めるようなことも平気でする」と英国政府への怒りを語ってくれたケン・ローチ監督。「家族を想うとき」では、ある家族を通して、人を人とも思わない企業の「働かせ方」を取り上げ、見る者に問う。

 舞台は英国ニューカッスル。ターナー家の父リッキーは、マイホームを持つという夢を叶えるため、フランチャイズの宅配ドライバーとして宅配事業をスタートする。妻のアビーはパートタイムの介護福祉士。借金のある一家は、リッキーの仕事道具となるバンを購入するためアビーの車を売り払い、彼女はバスで家々を訪問することになる。

 夫婦は一日中仕事に追いまくられ、高校生の息子と小学生の娘とろくに話す時間もなくなってしまう。やがて、息子は学校をサボって問題を起こし、娘はおねしょをするようになる……。

 本作のきっかけとなったのが、前作のリサーチに出かけたフードバンクで、ローチ監督と脚本家のポール・ラヴァティの心に留まり続けた労働者の「雇用形態の変化」だ。いま企業に雇用されることなく、インターネット経由で非正規雇用者が企業から単発または短期の仕事を請け負う労働環境、いわゆるギグエコノミーが拡大。こうした働き方の「リアリティーを見せたかった」と、ローチ監督は言う。

「ここ10年の間、英国の働き口の3分の2がこうした不安定な雇用となっている。来月いくら収入があるのかわからず、仕事の安泰も保証されていないというものばかりです。若くて養う家族がいなければそこそこ稼げるかもしれません。でも、家族を養わなければいけない家庭にとっていい話ではない。リッキーだけでなく、アビーも賃金は低く交通費さえ出ない状況です」

 リッキーは、実際にフランチャイズの宅配ドライバーとして働き、厳しい労働条件に縛られて亡くなった55歳の男性がモデルだ。AIに管理され、労働時間は1日14時間。配送中にどんなにひどい事故に遭っても自己責任。休暇を取るにも交代要員を見つけられなければ罰金が科せられる。家族の幸せを願って始めた仕事なのに、次第に「どうにも身動きできない状況」(ローチ監督)に追い詰められていく。

「観客があたかもリッキーの車に同乗しているように、そこで彼の表情を見て限界を迎えたんだ、と悟る瞬間を見せることがポイントでした」

 とローチ監督が語る衝撃のラストシーンは、とても他人事とは思えない。

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