同社は、iPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病患者に移植する臨床試験を、早ければ年内にも始める。iPS細胞から作った心筋細胞で心不全、腸の神経細胞で重い腸の病気といった治療の研究開発も進める。

 山中さんは「私たちがやってることと完全に競合する。超大国アメリカがiPSにどんどん乗りだし、本気になってきた」と話す。同社は16年に設立した時点で約250億円を調達。独製薬大手バイエルは今年8月、完全子会社化を発表。CiRAがこれまで国から受け取ってきた研究資金の総額を優に超えた。

 ほかにも、米バイオ医薬品企業フェイト・セラピューティクスは、がんを攻撃する免疫細胞をiPS細胞から作り、患者に移植。今年4月には、最初に投与を受けた患者では、28日間の観察期間で大きな副作用がなかったことを発表している。

 山中さんは危機感を募らせる。

「米国は日本の様子を見ていたんだと思う。(基礎研究や初期の臨床研究など)大変なところは日本がやってきた。米国はいけそうだと分かると、いっきに取りにかかってくる。米国で開発が進み、逆輸入する状況になりかねない」

 そのためにも、CiRAがiPS細胞をつくって大量に増やし、神経や心臓といった細胞に分化させたり、品質検査したりすることで再生医療の実現に取り組む企業を支え、競争力を上げる必要性を強調した。

「将来的に雇用や税収という形で国にも返ってくる。患者さんにもより早く新しい医療が届く。先々の投資という意味で、国の支援をいただきたい」(山中さん)

 iPS細胞のバンクも米国で複数立ち上がり、すでに細胞の提供が始まった。韓国やオーストラリアでも近年、設置された。「ここが今、本当に踏ん張りどころだ」と山中さんは語る。(朝日新聞社・合田禄)

AERA 2019年12月16日号より抜粋