平岡陽明(ひらおか・ようめい)/1977年生まれ。出版社勤務の後、2013年に『松田さんの181日』でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。著作に『ライオンズ、1958。』『イシマル書房編集部』がある(撮影/篠塚ようこ)
平岡陽明(ひらおか・ようめい)/1977年生まれ。出版社勤務の後、2013年に『松田さんの181日』でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。著作に『ライオンズ、1958。』『イシマル書房編集部』がある(撮影/篠塚ようこ)

 未婚で正規雇用経験もなく、フリーライターとして生きる「僕」。ある時、元同僚の仕事を手伝ってから世界の様子が変わり始める……。冴えない人々のありのままを肯定する連作小説集『ロス男』は、小説家の平岡陽明さんによるもの。著者の平岡さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 ロストジェネレーション。1990年代後半から2000年代前半の「就職氷河期」に社会に出た世代の総称として知られた言葉だ。景気低迷のあおりを食らい、非正規だの結婚できないだのと勝手に暗い形容で呼ばれてきた層である。それをズバリ、タイトルにした小説が出た。

「最初からロスジェネで書こうと思ったわけではないんです。小説誌に書いた初めの3話は、70歳を過ぎた編集者、アスペルガーの女性、やくざライターを描きたくて、その相手として『僕』を置きました。ところが“本にしましょう”とお話をいただいた時に、後半を書きつなぐ中で語り手の『僕』と全編を串刺しにする言葉が欲しくなり、冴えないフリーライターだから『ロス男』にしました」

 現在42歳の平岡陽明さん自身もまさにロスジェネ。単純なモデルではなく、デフォルメされているものの、編集者の「カンちゃん」に近い実在の人物とは交流があるという。

「私はゴルフ雑誌の編集をやっていた時期がありますが、その時の先輩がモデルに近くて、飲みながらいろいろお聞きしました。さすが編集者、“オレの部屋見にくる?”と、仕向けてくれたりします(笑)」

 本書には、「本当の人生を起動する」という意味のセンテンスが、言いまわしを変えて何度か現れ、太字で表記してある。社会に出てからずっと低迷してきた世代の再起動がメインテーマだ、ということになるのだが……むろん、そこに込められたニュアンスはもっとデリケートだ。

「吉本隆明さんの晩年のインタビューだったと記憶していますが、船を造っている職人やラーメン屋のおやじは、“ほんとはこうなりたかった”みたいなことだけは絶対言わない、とおっしゃっていました。私が書きたかったのは、再起動を決意した人の物語ではなく、“オレもまだ、人生を再起動させたいとか思っちゃうことがある、そんな自分がここにいるな”という思いのほうなんです」

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