反響は大きく、喫茶店からも依頼が入る。今年4月に閉店した東京都西東京市の「珈琲館くすの樹」もその一つだ。

 樹齢280年以上のクスノキの下、武蔵野の地で40年続いた山小屋風の喫茶店。2代目の下田明仁さん(50)が創業者の父から継いだのは14年前のことだ。100席ある店の経営は順調だったが、開業時からの設備、特に水回りがギリギリの状態だった。修繕に長期の休みが必要となり、父や長年共に働くスタッフと協議を重ねた。毎朝、コーヒーの味を確かめていた父も80代になっていた。下田さんは言う。

「正直言えば続けたかったけど、消費税増税や人手不足の問題もあった。何よりも父がやり切ったという思いが強かったのでね」

 惜しまれつつも閉店を決めた後が大変だった。調度品を古物商に見てもらったが、引き取れないという。そこでSNSで知った村田商會に連絡した。

 販売数は1千点以上。ウェブではなく、村田商會が主催して店内で展示販売会を開いた。その3日間は、土砂降りにもかかわらず大盛況。40年前から使うシャンデリアも、使い古した包丁も売り切れた。北海道から訪れてイス20脚やテーブルを購入した30代の女性は、江別市で喫茶店を始めるそうだ。下田さんは、村田商會に感謝する。

「ほしいと思ってくださる方に直接お譲りできて、父も喜んでいました。次につながる大成功の幕引き。江別のお店がオープンしたら行ってみたいですね」

 村田さん自身は今年、実店舗を兼ねた喫茶店「村田商會」を開いた。東京の西荻窪駅北口から徒歩3分にある創業45年の喫茶店が閉まると知り、「もったいない」と居抜きで店舗を借りたのだ。クラウドファンディングで70万円近くを集め、設備工事費を賄った。

 ブレンド500円、トースト100円。経営側になると、こんなに売れない生業なのかと実感する。ウェブ販売だけでも生活できる収入があったので思い切ることができた。

 村田さんはこの場で、喫茶店をたたむ人と始める人を直接つなげる試みを考えていると言う。

「今、台湾や香港、中国の人たちが純喫茶を日本の観光資源として見て楽しんでいます。喫茶店を文化として紹介できるよう、底上げにつながることがしたい」

(編集部・塩見圭)

AERA 2019年12月2日号