「『偉大なる疲労』はスミソニアン博物館で特別研究員としておこなったアーカイブ調査に基づいて制作したものです。世界がどのように生まれたのか、古代の人々はさまざまな想像をしてきました。一方で人類は『知』でこの世界を捉えようとしてきた。この作品では理性と儚さの対立、人類の暴力的なまでの収集への欲求と、そこに収まりきらない神話の生き生きとした記憶の世界を、そのまま表現したいと思いました」

 同作では、世界各地の神話や宗教の物語が、パフォーマンスアーティストによって語られる。紡がれた各地の神話と現代的なスクリーン画面を観ていると、観客もその一部に取り込まれてしまうようだ。

「さまざまな表現方法をなぜ使うのかといえば、私たちが住んでいる世界のコンテクストを理解したいからです。今やあらゆるものがデジタル化され、同じレベルで語られています。存在する、その世界を受け入れた上で、個々のものの間にある関係性を見いだすことが重要です。そうした能力こそが問われているのだと思います」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2019年12月2日号