「“Don’t go anywhere.”(どこにも行くな)と言うとき、Don’tに力をこめるか、goにこめるかで、相手への伝わり方が変わってしまうんです。セリフの持つニュアンスと、ぼくの声や表情が一致するまで、何度もやり直すことがありました」

 撮影が始まってしばらくは、共演者に「トモはストイック」と評価されるほど練習した。夜はみんなで食事やお酒を楽しむのが常だったが、それぞれ、気にすることなく途中で帰ることも多かった。

 日本であれば「なんで帰っちゃうの?」「つきあいが悪い」という空気が漂いそうだが、「それは、まったくなかった」と山下さんは言う。

「ぼくが『明日の撮影ヤバイから、練習するよ』と説明すれば、『そうか』『がんばって!』と応援してくれるんです。逆に、理由をちゃんと言わないとダメで、誤解されてしまいます」

 飲みに行こうと誘われたとき、“I’m okay.”(遠慮しておくよ)と断ったことがあった。

「怪訝な顔をされたので、『今日は疲れているから寝たいんだ』と正直に言うと、みんなすごく安心した表情になったんです。『トモは俺たちのことが、嫌いだから断ったんじゃないんだ』って(笑)」

 日本では誘いを断るとき、理由をあいまいにする傾向があるが、それはほかの国の人たちには伝わりにくい。自分がどう感じているか、常にひと言添える習慣が身についた。

「たとえば『もう食べられない』と言ったあとには、“But,I like it.”(好きなんだけど)を付け加えます。もちろん“I don’t like it.”と言っても『トモはこれが嫌いなんだ』と、そのまま受け止めてくれます。正直に気持ちを伝えればそれでいいと気づいたら、ぼくも楽になりました」

現場でのコミュニケーションが深くなると、英語そのものにも慣れてくる。セリフを覚える時間も格段に速くなり、みんなで過ごす時間も長くなった。

「最終的には、ファミリーみたいな感じになりました。仲間になる過程は、万国共通ですね」

(ライター・神素子)

※記事の続きは「AERA 2019年12月2日号」でご覧いただけます。