事態は収束どころか悪化の一途をたどる香港。負傷者が続出し、不安の声は増すばかりだ。そんな中、若者の間で「覚悟」を示すある言葉が広まっている。AERA 2019年11月25日号では荒れる香港を特集。その言葉が意味することとは。
【妊婦に催涙スプレーをかけたり、警官が若者に銃を突きつけたりしている画像】
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<香港科技大の学生が武装警察官の催涙弾攻撃を受け、建物から転落して死亡>
<白昼の路上、交通警察官が丸腰の若者2人に向けて威嚇射撃もなく実弾で銃撃>
<妊婦にののしられた警察官が、女性の顔に催涙スプレーを浴びせて倒し、3人がかりで逮捕>
<武装警官が香港中文大学を急襲。催涙弾の直撃を受けたり殴られたりした学生、数十人が負傷し287人が逮捕される>
いずれも11月に入ってから香港で起きたことで、香港警察による抗議者制圧は、これまで以上に残虐で、狂暴性を帯びるようになった。
そしてそれは、11月4日に上海で行われた中国の習近平国家主席と林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官との「会談」と無関係ではない。支持率20%という林鄭氏に対して、習氏は能力のなさをなじるどころか「あなたを信頼しています」と話しかけたあと、「暴力行為に対しては法に基づき厳格に処罰すべきです。それが香港市民の幸福を守ることになるのだから」と続けた。
■出歩くだけで逮捕も
習氏に面と向かってそう言われた林鄭氏は、好むと好まざるとにかかわらず香港警察に「徹底した武力制圧」を指示するしかない。会談以降の警察官の狂暴な動きは、そうした意向を反映したものだと考えられる。そして、習政権はその「狂暴性」を評価し歓迎している。中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は、2人の若者が警官に実弾で撃たれ負傷した翌12日、「暴徒を銃撃したことを断固として支持する」と書き、その場で射殺することも正当性ありと言明した。
それに対して、抗議運動に参加している香港市民、とりわけ女性たちは戸惑いを見せている。6月以降、何度も街頭デモに参加している香港の友人らに今の思いを聞いた。ここで紹介する3人は、いずれも20代の女性で、学生ではなく就労している。
「デモに行く私をこれまで止めなかった両親から、丸腰で平和的にやっていても撃たれたり逮捕されたりするから、もう出るのはやめなさいと言われた」