デモ隊と警察隊の衝突現場付近で大学生が建物から転落して死亡した現場。「永遠に忘れない」と書かれた写真が貼られていた (c)朝日新聞社
デモ隊と警察隊の衝突現場付近で大学生が建物から転落して死亡した現場。「永遠に忘れない」と書かれた写真が貼られていた (c)朝日新聞社
2014年の民主化デモ「雨傘運動」の学生リーダーの一人、周庭(アグネス・チョウ)氏は自身のツイッターで、香港の現状を写真や動画を交えてつぶさに書き込んでいる。写真右の銃を突きつける警察官は、その後近づいてきた別の男性に発砲した(画面は周庭氏のツイッターから)
2014年の民主化デモ「雨傘運動」の学生リーダーの一人、周庭(アグネス・チョウ)氏は自身のツイッターで、香港の現状を写真や動画を交えてつぶさに書き込んでいる。写真右の銃を突きつける警察官は、その後近づいてきた別の男性に発砲した(画面は周庭氏のツイッターから)

 事態は収束どころか悪化の一途をたどる香港。負傷者が続出し、不安の声は増すばかりだ。そんな中、若者の間で「覚悟」を示すある言葉が広まっている。AERA 2019年11月25日号では荒れる香港を特集。その言葉が意味することとは。

【妊婦に催涙スプレーをかけたり、警官が若者に銃を突きつけたりしている画像】

*  *  *

<香港科技大の学生が武装警察官の催涙弾攻撃を受け、建物から転落して死亡>

<白昼の路上、交通警察官が丸腰の若者2人に向けて威嚇射撃もなく実弾で銃撃>

<妊婦にののしられた警察官が、女性の顔に催涙スプレーを浴びせて倒し、3人がかりで逮捕>

<武装警官が香港中文大学を急襲。催涙弾の直撃を受けたり殴られたりした学生、数十人が負傷し287人が逮捕される>

 いずれも11月に入ってから香港で起きたことで、香港警察による抗議者制圧は、これまで以上に残虐で、狂暴性を帯びるようになった。

 そしてそれは、11月4日に上海で行われた中国の習近平国家主席と林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官との「会談」と無関係ではない。支持率20%という林鄭氏に対して、習氏は能力のなさをなじるどころか「あなたを信頼しています」と話しかけたあと、「暴力行為に対しては法に基づき厳格に処罰すべきです。それが香港市民の幸福を守ることになるのだから」と続けた。

■出歩くだけで逮捕も

 習氏に面と向かってそう言われた林鄭氏は、好むと好まざるとにかかわらず香港警察に「徹底した武力制圧」を指示するしかない。会談以降の警察官の狂暴な動きは、そうした意向を反映したものだと考えられる。そして、習政権はその「狂暴性」を評価し歓迎している。中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は、2人の若者が警官に実弾で撃たれ負傷した翌12日、「暴徒を銃撃したことを断固として支持する」と書き、その場で射殺することも正当性ありと言明した。

 それに対して、抗議運動に参加している香港市民、とりわけ女性たちは戸惑いを見せている。6月以降、何度も街頭デモに参加している香港の友人らに今の思いを聞いた。ここで紹介する3人は、いずれも20代の女性で、学生ではなく就労している。

「デモに行く私をこれまで止めなかった両親から、丸腰で平和的にやっていても撃たれたり逮捕されたりするから、もう出るのはやめなさいと言われた」

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「警官にレイプされたと証言していて…」