「危険性が増していますが、私たちのモチベーションは低下していません。今後はデモに参加するだけではない、効率的で賢い抗争策を練りあげます。たとえば、弁護士や医師の多くがボランティアとして逮捕者や負傷者を救援しているんですが、このように、街頭デモの現場から離れて運動に参加する活動も大切にしたい」

「国際的な支援を求めてはいますが、香港は大国間のせめぎあいのゲームの駒にされているようで、過度な期待はしていません。とはいえ、ツイッターなどSNSを使って香港の状況をより多くの世界の人々に伝える努力はこれまで以上に重ねます。いつの日か、警察や官僚が、今犯している人道、国家犯罪に関して、国際法廷で裁かれる日を夢見ながら」

 そういった厳しい状況の中、若者たちのなかで広がりつつあるのが「攬炒(ラムチャオ)」(死なばもろとも)という覚悟だ。

 これは、警官を巻き込んで死んでやるといった意味ではない。習氏が香港人の「自由と民主」を認めないなら、中国経済にとっても欠かせない香港の国際金融センター機能を麻痺(まひ)させ、失業、給与カットなど、たとえ自分たちが不利益を被ることになっても、香港内の親中的な富裕層や中国政府に多大な打撃を与えてやるという覚悟だ。

■香港経済の後退が加速

 香港の中心街にある高級ホテルに勤める男性はこう話した。

「騒乱のせいで中国本土の富裕層の客が激減し、客室料金を半額にして対応しているが、かなり苦しい。ホテル業界のみならず、不動産も何もかも不景気になり、香港経済の後退は加速している。だからといって抗議運動を非難する気はない。むしろ、この何年かチャイナマネーに浮かれ、自由と民主に目をつむっていたことを反省している」

 そう語る彼に、「攬炒」の話をすると、こう言った。

「習近平は香港が機能不全に陥ってもかまわず弾圧を続け、本土内に代わりの国際金融センターを作ろうとするだろう。だけど、自由と民主のない都市に香港の代役を担うことはできない」

 荒れ狂う香港は、今後、どういう展開を見せるのか。

 当面、注目されるのは、11月24日に実施される予定の香港区議会議員選挙だ。立法会議員選挙や行政長官を選出する「制限選挙」とは異なり、区議会議員選挙は原則として、21歳以上の誰もが選挙権と被選挙権を持つ「普通選挙」で、18区議会の計452人の議員を小選挙区制で選出する。

 つまり、各選挙区それぞれ得票数1位の者のみが当選者となるわけで、習氏など中共、林鄭氏を支持するいわゆる親中派の候補は、軒並み民主派の候補に敗れる可能性が高い。

 これは、習氏に民主勢力の平定を命じられている林鄭氏にとっては実に厄介なことで、彼女が投票日直前に「社会情勢が不安定だから」などと言って投票延期措置をとる可能性は低くない。そうなれば、また市民の怒りは高まり、勇武派の若者たちにシンパシーを寄せる人が増えるだろう。

 いずれにせよ、互いに「引くことができない」香港の騒乱はすぐには収まらず、習近平・林鄭月娥と香港市民との闘いは、来年以降も続くことになる。(ジャーナリスト・今井一)

AERA 2019年11月25日号