また、従業員の脳データを計測するに当たっては、企業に倫理的な対応も必要と話す。


「従業員の脳波を測る場合、本人の同意を得るのは当然ですが、対外的に発表するのであれば、実施内容やプロセス、参加者の権利の保障について第三者の倫理委員会などの審査を受けるのが望ましいとされています。これは脳科学をビジネスの現場に活用する上で企業の責任として確立すべき課題といえます」

「脳科学」をうたう商品には、危うさもつきまとう。「人間の脳を操作し、行動を変えていいのか」との指摘は脳科学の専門家からも上がっている。テクノロジーの進化は止められないが、ビジネスや生活の場にどのような形、条件で取り入れるのがいいのか議論が必要だ。

 また、ブレインテック商品を上手に活用するには、ユーザーのリテラシーも欠かせない。茨木氏はこう話す。

「ブレインテックは非常に魅力的な分野ですが、根拠がきちんとした商品の流通はまだ限られています。興味を持った人は、次の点に気をつけて納得のいく製品を選んでもらうか、過度な期待は避け、ゲーム感覚で試してみるぐらいのほうがよいでしょう」

 茨木氏は商品を選ぶ際の留意点として次の四つをあげる。

(1)エビデンスの有無
 サービスの根拠となる科学論文や研究データが存在するか。存在する場合、それは第三者の専門家によってチェック(査読)されているか。

(2)エビデンスの質
 評価のバイアスを避け、客観的に効果を検証するランダム化比較試験(被験者を無作為に分けて効果を比較する)を実施しているか。「脳波を測っているから効く気がする」といったプラシボ効果を排除する条件設定下で立証されているか。

(3)エビデンスや指標の解釈
 前頭部のα(アルファ)波を使った先行研究を示しながら、後頭部のα波を使ったサービスの根拠として説明していたり、「仕事をしているときの集中力」の指標に「豆を箸でつかむときの脳波」との類似性を利用したりしているケースは、拡大解釈やエビデンスの誤用の可能性がある。

(4)エビデンスの対象者
 特定の症状の患者に「効果があった」とするエビデンスが存在していても、それが健常者の注意力コントロールにも当てはまるかどうかは別である。

(編集部・渡辺豪)

週刊朝日  2019年11月11日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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