“ランディの歪んだサスティーンに乗っていく”――。ランディとはおそらくギタリストのランディ・ローズ……オジー・オズボーン・バンドの初代ギタリストであり、25歳の若さでこの世を去った伝説のロック・ギタリストのことではないかと想像できる。そのランディもプレー・スタイルに取り入れていた、エレキ・ギターの持続音を意味するサスティーン(サスティン)という言葉を重ねることで、ロックやポップスへの愛と、長く聴かれ続けることへの願いが込めているのではないか。

 しかも、彼らはそうした思いを、エッジーなギター・リフだけではなく、情緒的なフレーズと絡ませて聴かせる。歌詞だけではなく、その思い切った試みの中にもまた新たな決意が漲っていることに気づかされるのだ。

 しかも、ただ決意や再発見を伝えるだけではなく、そこに一音楽ファンとしての哲学をしっかり落とし込んでいる。軽快なリズムが刻まれる「ラジオデイズ」の一部はこんな歌詞だ。

“遠い国の音楽/多分空も飛べる/ノイズをかき分けて/鼓膜に届かせて”――。Apple Music、Spotifyなどの定額制配信サービス(サブスクリプション・サービス)で簡単に世界中の音楽をザッピングして聴ける時代に、それでもあえてラジオが伝える一期一会の醍醐味を綴る草野。そのロマンチシズムがまたこの曲やアルバム全体に躍動感を与えている。

“空も飛べる”というフレーズから彼らの代表曲「空も飛べるはず」を思い出す人も多いだろう。今から25年ほど前の曲と、真新しい曲とがちゃんと繋がっていることも彼らはさりげなく表現しているのだ。

 現在、多くの音楽ファンは定額制配信サービスで音楽を楽しむようになっている。解禁が待たれていたスピッツも、この新作のリリースと同時に1991年のデビュー・アルバム「スピッツ」以降の楽曲の配信をいっせいに開始した。

 彼らがここにきてサブスクリプション・サービスに踏み切った本音のほどはわからない。けれど一方で、スピッツは今回もCDとアナログ・レコード(完全受注限定盤)でもしっかりリリースしており、聴く人のチョイスによって様々な環境で聴かれることを前提に常にオープンな状態を心がけている。

 それは、どんなリスナーの日常にも寄り添っていたいと願うスピッツからの、ポップ・ミュージック本来の存在意義であり、あまりにもささやかすぎて見落とされがちな魅力への壮大な問いかけであり、それが我々の生活から徐々に失われつつあることへの警鐘でもあると思うのだ。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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