21世紀に入ってからは、私邸ならではの雰囲気が残る、書斎や寝室などの空間を生かした個展を中心にプログラムが組まれ、横尾忠則、篠田桃紅、やなぎみわ、杉本博司、ソフィ・カルらをはじめとする、国内外のアーティストの展覧会が開かれてきた。写真家で本誌表紙の撮影でも知られる坂田栄一郎、蜷川実花といった名前も並ぶ。

 館内には常設展示もあり、初期に個展を開催した作家、ジャン=ピエール・レイノーと作ったインスタレーション「ゼロの空間」をはじめ、宮島達男、奈良美智、森村泰昌などの作品を見ることができる。

 ユニークな存在として知られてきた原美術館だが、2020年12月で閉館、その歴史に幕を下ろすことが決まった。閉館後は展示をおこなわず、一般には非公開となるという。

「閉館を決めた理由はいくつかあります。築80年経った建物の老朽化が激しいこと。近年、バリアフリーが言われるようになりましたが、古い建築を再利用していますから、対応するにも限界があります。現代美術をめぐる環境の変化もあり、一つの節目だと考えました」

 と、内田洋子館長は語る。

 建て替えをするにも制約があり、そもそも私邸である、モダン建築を美術館にしてきた意味合いが失われてしまう。

 閉館後、活動の舞台は群馬県渋川市、榛名山麓の高原にあるハラミュージアムアークに移り、「原美術館ARC」として、新たなスタートを切るという。

 ここは、大型作品も展示できる「別館」として、88年に原さんが開館。「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を今年受賞した、磯崎新(いそざき・あらた)による設計で、黒い色調で統一された建築が緑に映える。ランドスケープと建築が一体となった美術空間で、08年には曽祖父の原六郎氏が収集した東洋古美術品のための特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」も完成。現代美術と古美術が違和感なく共存できる空間になっている。

 現代美術と社会の関わりをつねに問いかけてきた原美術館。現在の建物が閉館されるのは寂しいが、あと1年余り、プライベートな空間でのアート体験を逃さないようにしたい。(ライター・矢内裕子)

AERA 2019年9月23日号