SHOWROOM社長・前田裕二(撮影/岡田晃奈)
SHOWROOM社長・前田裕二(撮影/岡田晃奈)

「メモは僕にとって、空気と同じように、ただ自然とそこにあるもの。仕事や思考をするうえで、すべての知的生産活動における原点で、『ないこと』が考えられないんです」

 こう話すのはSHOWROOM社長の前田裕二さん(32)。いま、「メモを取ること」が新たな発想のためにどう生きるかを記した著書『メモの魔力』が話題になっている。

 メモを「すごく取り始めた」のは小学校高学年。その頃は比較的シンプルなメモだったが、大学生の頃に確立した現在の形式は、ノート見開きに縦割りで三つのゾーンを設けたものだ。

 左から右へ、まずは「ファクト(事実)」。自分が少なからず興味深いと思った事実や感情を記す。続いてそれを、他の分野にも応用可能な気づきを得るために「抽象化」する。最後がその抽象化した内容をアイデアに落とし込む「転用」。

 たとえば、(1)宣伝担当者から「チラシに飴をつけると、大阪では東京の3倍受け取ってくれる」という「ファクト(事実)」を聞いて、メモする。(2)それを「大阪人は、東京人よりも直接的で目に見えるメリットの訴求に弱い」と抽象化する。(3)「同様の現象がないか、自社の地域別データを調べてみる」と転用する、という流れだ。

「メモを取る行為を通じて、このプロセスを自分の中に沁み込ませることが、知的生産性を上げるうえで役に立つんです」

 ただ、何をどうメモすればいいかわからない人もいるだろう。

「一番は、真剣度の問題かなと思います。たとえば今、親に買い物を頼まれる。卵を2パック、牛乳を一つ、ベーコンとレタスを一つずつとか。もし1個でも間違えたら罰ゲームがあるという、緊張する真剣な買い物なら多分、誰でもメモしますよね(笑)。そもそもメモ自体が目的じゃない。その先の大きな目的のためです。僕らだったら会社をこれくらいまで強く大きくするとか。そこに対する本気度やモチベーション設定を怠らないことが最重要だと思います」

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら
次のページ