藻谷ゆかり(もたに・ゆかり)/1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業後、金融機関に勤務。91年、ハーバード・ビジネススクールでMBA課程を修了。2002年に家族で長野へ移住。地域エコノミストの藻谷浩介氏は義弟(撮影/写真部・片山菜緒子)
藻谷ゆかり(もたに・ゆかり)/1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業後、金融機関に勤務。91年、ハーバード・ビジネススクールでMBA課程を修了。2002年に家族で長野へ移住。地域エコノミストの藻谷浩介氏は義弟(撮影/写真部・片山菜緒子)

 藻谷ゆかりさんによる『衰退産業でも稼げます』は、地方の商店・旅館・農業・伝統産業という「衰退産業」のまっただ中にありながら、「代替わり」によって蘇った16のケースを著者自ら徹底研究した1冊だ。著者の藻谷さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 本書に登場するのは、衰退産業と言われる「商店・旅館・農業・伝統産業」において、主に代替わり時にイノベーションを起こした16の事例だ。

 本文では前述の分野ごとに、それぞれ四つの事例を研究している。事例ごとにどのような危機や問題があり、どのように業績をV字回復させたかを具体的に取り上げている。

「イノベーションというと、ハイテク産業のものだと思われがちですが、実は『ローテクのイノベーション』でも経済成長をもたらすことが可能です」

 そう語る藻谷ゆかりさんは東京大学経済学部を卒業後、金融機関に勤務し、ハーバード・ビジネススクールでMBA課程を修了。留学中に知り合い、結婚したパートナーと共働きをしながら3人の子どもを育てて、外資系メーカー勤務を経て、インド紅茶の輸入・ネット通販会社を起業した。

 だがアラフォーになってから、家族とともに長野県北御牧村(現在の東御市)に「愛ターン」することを決意。

「愛ターンとは、地縁や血縁によらず、その土地に魅力を感じて移住することです。浅間山、蓼科山に囲まれた絶景の自然に恵まれた北御牧村には、移住当時、コンビニもなく、信号機は村内に2カ所だけ。17年以上、田舎暮らしをしましたが、インターネットの普及で、情報や買い物の不便さはありませんでした。むしろ田舎に住んだことで、本書で取り上げた衰退産業が身近な存在になり、経営難や後継者難の状況をより切実に感じるようになりました」

 言ってみれば、読者のあなたが衰退産業の事業承継をする可能性もあるのだ。

「本書で取り上げた商店・旅館・農業・伝統産業には、共通した特徴があります。長く続いてきて、残すべき価値がある。新規参入が少なく、比較的ローリスクで後継者難。代替わりはチャンス、労働集約的である半面、生業としてやりがいがあること──です」

次のページ