現在のエンタメ文学の扱うテーマは幅広い。日本社会の多様化する現状と、読者が小説に求める心理を反映しているとも言える。ジャンルよりも書き手を重視する読者が多く、作家主義的な読まれ方だと言う。

「いまのエンターテインメント小説では、時代小説や推理小説といったジャンル小説よりも、生活者の感情に寄り添うきめの細かい小説が求められています。読者としては、どういう人が自分の感情に合うものを書いてくれるんだろうということを考えていると思います」(杉江さん)

 都内の書店で文芸書を担当する40代の女性書店員はこう語る。

「文芸書の中では男性作家、女性作家という違いは感じませんが、書店全体で見ると、フェミニズム的なものであったり、既存の価値観を壊そうとする多様な価値観を反映した本が増えつつあります。今回の直木賞の候補作にも、そのような時代背景を感じます」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年7月1日号