稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
頂いた大量の山椒を使い切れず乾燥保存を企んでいるところ。冷蔵庫がない人間じゃなきゃこんな知恵は出まい(写真:本人提供)
頂いた大量の山椒を使い切れず乾燥保存を企んでいるところ。冷蔵庫がない人間じゃなきゃこんな知恵は出まい(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】冷蔵庫がないので大量の山椒の乾燥保存を企んでいるところ

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新聞で、国が数値目標を掲げて認知症の予防に取り組むと知り、驚いた。

 そもそも認知症にならない確かな方法などない(もしあれば患者などいない)。しかしその中でもあえて「予防法」を挙げるとすれば、自らの機能を目一杯使って生きるということだろう。体を動かし、人と交流し、つまりは体も頭も心もフル回転しながら暮らす。なぜって「使わないものは衰える」のだ。健康な人も一カ月寝ていたら足腰が立たなくなる。体は、使わぬものは「いらない」とみなすのである。そう考えると、こうした心がけは認知症云々に留まらず、長寿社会を生きる上でとても大切なことだ。

 で、我が国の現状はどうか。

 現代日本はあくなき「便利」を追求し続けている。便利とは自分の体や頭を使わなくてもいいということだ。面倒な家事は家電製品がスイッチ一つでやってくれるのはもちろん、今では家から一歩も出なくても口をきかなくてもスマホさえあれば暮らしに必要なものは何でも届けてもらえるし、暑いか寒いかもエアコンが感知して自動的に快適環境を作ってくれるし、そもそも自分が何を欲しいのかもコンピューターが提示してくれるようになった。念のため言っておくが、これは重病人が利用するためのものではなく全員のためのものである。唯一のくびきは「金を稼がなきゃいけない」ことで、そのためには否が応でも体も頭も使わずには済まないのだが、それもいずれはAIのおかげで「働かなくていい」社会になるという人もいる。

 これが我々の目指す理想社会なのか。っていうか、これって少なくとも認知症対策とは真逆なんじゃないのか。

 私はたまたま、節電というきっかけを得て「便利」と決別することになった。実際に体験して痛感したのは、この「理想社会」がいかに、自分の頭も体も使わない生活であったかということだ。そして、それがいかに「つまらない」そして「孤独な」暮らしであったかということだ。

 私の老後対策は一人勝手に万全である。

AERA 2019年6月10日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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