「『BIUTIFUL ビューティフル』は自分にとって非常に感慨の深い作品だと感じている。テーマの点でも、長編だったという点でも。5カ月間もぶっ続けの撮影も厳しく、ずっしりと責任を感じる日々が長く続いた。全編を通して主人公が中心になっている映画だったから、疲労困憊したよ。肉体的な緊張もあり、呼吸困難に陥ったような心境で、リラックスできない日々が続いたんだ」

 俳優一家に生まれ、フランコ独裁時代のスペインで幼少期を過ごした。

「両親は僕が幼い頃に離婚して、母に育てられた。母が女優として仕事をしている様子を見ながら育ったんだ。フランコ政権時代に女優をやるというのは、大変な苦労だった。そんな環境で育ったから、いつも心のどこかに母を思う気持ちがあるんだ」

 逞しく男らしい外観とは裏腹に、女性の心を深く理解する繊細な心の持ち主なのだ。

◎「誰もがそれを知っている」
アスガー・ファルハディが監督・脚本。全国順次公開中

■もう1本おすすめDVD 「BIUTIFUL ビューティフル」

 ギレルモ・デル・トロ、アルフォンソ・キュアロンと並び、現代メキシコ映画界の3大監督のひとりアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの2010年の作品。バルデムが演じるのはメキシコからの不法移民で、スペインのバルセロナに住むウスバルだ。精神的に不安定な妻と別れ、2人の子どもを男手ひとつで育てている。タイトルは子どもが間違ってつづったスペリングに由来する。

 不法移民のための職を斡旋し、細々と闇社会で生計を立てている彼は、死者との会話ができる霊感の持ち主でもある。その彼が突然前立腺がんで余命2カ月と宣告され、絶望の淵に立たされる。自分亡き後、子どもたちはどうなるのか──。違法な形で生計を立てている彼だったが、心の底では余生で人を救い自分も救われたいと欲するのだった。

 長編デビュー作「アモーレス・ペロス」から常に哲学的な課題、特に死というテーマを刹那的に美しく映像化してきたイニャリトゥ監督。難民問題が世界的な問題へと深刻化する前に制作された。雪景色で始まり終わる映像は感動的だ。バルデム自身が誇りに思うこの作品は、カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞した。

◎「BIUTIFUL ビューティフル」
発売元:ファントム・フィルム 販売元:アミューズソフト
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2019年6月10日号