渡辺:「ひとり紅白」ではお祭り的なパートもありますが、基本、ずっと歌を聞かせるというスタイルですよね。アレンジもかなり原曲に忠実。そのおかげで当時を彷彿とさせる何かがあるんです。桑田さんの歌声には、喜怒哀楽みたいなものが全部入っているんだけど、さらにサウダージ(郷愁)もある。

柴:あー、なるほど。

渡辺:僕が小さいころに歌謡曲を聴いていた時って、別に故郷に帰りたいとかないのに、歌っている人を見るとジーンときたもの。桑田さんの声はそれに近い。郷愁がグーンと入ってくるんです。

柴:調べてみたら「懐メロ」という言葉は、実は50年代くらいからあるんです。やっぱり懐かしさとか郷愁を感じるというのは時代に関係なく音楽の魅力の元になっているんだと思います。

渡辺:僕らの世代は歌謡曲がちょっと辛気臭いというか古臭いと思わせる面もあったけど、(作曲家の)筒美京平さんの曲のように洋楽のエッセンスもたっぷり入ってました。結果的に、テレビやラジオから浴びるように歌謡曲を聴いているということは、当時流行っていた洋楽のエッセンスを聴いているということとイコールなんです。だから、後から追いかけやすかったですね。60年代のソウルを聴いて歌謡曲っぽいなって逆に思う、みたいな。

柴:そうなんですよね。歌謡曲は決して過去の文化として懐かしむものではなく、今も現在進行形であると。桑田さんもカミラ・カベロの最新曲を日本語で解釈して一番新しいラテン歌謡にしている。そこに矜持というか単なる懐メロに終わらせない心意気を感じました。

渡辺:レディー・ガガの「Born This Way」を三波春夫さんの「東京五輪音頭」とマッシュアップしていましたね。レディー・ガガも桑田さんなりに解釈すると三波春夫さんにつながっちゃう。テレビ番組の「音楽寅さん」があったことで、こういう音楽的な遊びを散々耕してきた結果、でしょうか。

柴:音楽的な遊びももちろんですし、喜怒哀楽の中のコミカルな部分も。

渡辺:そう。どうしてもふざけたい、っていう本人の強い意志が伝わってくる(笑)。

柴:クレイジーキャッツがいてドリフターズがいて。桑田さんが笑いと音楽に影響を受けているのも伝わってきますね。

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