AERA 2019年5月13日号より
AERA 2019年5月13日号より

 長期政権を築いたカザフスタンの大統領が3月に辞任した。中央アジアの独裁体制に変化が表れる様相だ。日本には馴染みが薄い国々だが、この地域との付き合い方が、今後の日本経済のカギを握る。

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 辞任は中央アジアの転換点になるかもしれない。カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領(78)は退任の演説で、「新しい世代には新しい課題がある」と述べた。ウズベキスタン出身で、筑波大学で教鞭をとるティムール・ダダバエフ教授(国際関係学)は、これを重要なメッセージだとみる。

「ソ連解体の混乱の中からカザフスタンという国の形をつくるのがナザルバエフ前大統領の役割でした。前大統領はこれからも権力を持ち続けますが、国を富ませ、発展させていくのは次世代の責任だと宣言したのです」

 隣国ウズベキスタンでも初代のカリモフ大統領が死去して以降、目まぐるしいスピードで経済改革が進んでいる。カリモフ時代のウズベキスタンは、外貨の持ち出し制限や二重為替といった複雑怪奇な経済システム、法律よりも大統領令が優先される社会体制などが外国企業の進出を阻んできた。しかし、2代目のミルジヨエフ大統領が急ピッチで改革に取り組む。ウズベキスタンの変動、そしてカザフスタンの大統領交代は、日本企業にとっても大きなチャンスだ。ダダバエフ教授は指摘する。

「東南アジアや南アジアに企業が参入しつくした今、中央アジアはほぼ唯一の未開のフロンティアです。ウズベキスタンでは進出の壁だった制度が改善され、環境が整いました。カザフスタンでも、日本が入り込むチャンスがもっと生まれるはずです」

 中央アジアは、5カ国合わせても人口約7千万人。市場として決して大きくはないが、その先に続く玄関口と考えると別の世界が見えてくる。

「例えばカザフスタンはユーラシア経済連合の一員で、国内に生産工場を持てばロシアなどに非関税で製品を輸出できます。日本企業は中央アジアへの投資を考えるとき、現地で生産した資源をどう日本に持ち帰るか、という視点しか持っていません。しかし、日本経済が頭打ちとなり、中国や韓国との関係もうまくいっていない今、現地でつくってその周辺へ売るというビジネスモデルを構築するべきです」(ダダバエフ教授)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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