「アメリカの観客は退屈だったら『Boring,Boring』とコールを飛ばし、あとはお祭り騒ぎをするのが普通なのに、今回は試合の行方を固唾をのんで見守っていた。それは日本にしかなかった光景なんです」

 金澤さんは、新日本プロレスにコアな海外ファンが増えた要因をこう分析する。

「動画配信サービスの『新日本プロレスワールド』で火が付いたと思います」

「新日本プロレスワールド」は、新日本プロレスとテレビ朝日が共同で運営しており、過去のアーカイブ映像から生中継まで、毎月定額で観ることができる。14年からサービスがスタートし、現在加入者は約10万人。そのうちの4割強が海外からの加入者だという。テレビ朝日総合ビジネス局局次長の松本仁司さん(56)によると、会員が爆発的に増えたのは、当時WWEのトップスターで日本での知名度も高いクリス・ジェリコ(48)が新日本プロレスの試合に出場した18年1月4日が契機だったという。

「そこで海外からの会員数が増えたので、海外向けの展開にも本腰を入れ始めました」

 生中継でも放送席を二つ構え、日本語以外に、WWEの実況をしていたアメリカ人アナウンサーによる英語実況もしている。同局デジタル事業センターの斎藤純弥さん(29)はこう言う。

「最初は大きな大会のみでしたが、海外のファンがこれだけ増えてきたので、できるだけ2カ国語で実況しています」

 プロレス冬の時代にも番組制作を続けてきたテレビ朝日。その時代に放送した映像は現在貴重なアーカイブ映像となり、動画配信によって、新日本プロレスの魅力を世界中に伝えている。

「総合格闘技ブームなどで揺れた時期もありましたが、日本では力道山以来の長い歴史もある。スポーツの世界ではスターが出れば一気に人気がはねあがる。プロレスもいつかそうなる可能性もあると信じて続けてきました」(松本さん)

 かつてアメリカでは、日本のプロレスラーは忍者の格好をしたり、後ろから襲ってにやっと笑っておじぎをしたりといったステレオタイプを背負わされていたという。しかし今大会はリングアナウンスは日本語、現地の観客が入場テーマ曲を日本語で一緒に歌うという光景が見られた。前出の斎藤さんは言う。

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