児玉氏との縁は深い。徳仁天皇陛下が1960年に誕生して間もないころ、産湯につかった陛下に学者が「日本書紀」などの古典を読み聞かせる皇室の儀式「浴湯の儀」に児玉氏が立ち会った。高校時代からは父の明仁皇太子(いまの上皇さま)とともに、児玉氏らによる歴代天皇の事蹟に関する進講を聴いた。2001年の愛子さま誕生の際の浴湯の儀でも、日本書紀の推古天皇の条の朗読を児玉氏に依頼している。

 卒論のテーマは日本中世の水上交通史。室町時代の瀬戸内海での物資流通の実態を記した史料が発見されたことがきっかけだった。83年から2年間留学した英オックスフォード大学でも、18世紀のテムズ川の水上交通史を専攻。帰国後は学習院大学史料館の客員研究員として研究を続けた。公家が記した文書などを解読し、牛車など中世の交通手段や関係文書の成立過程について調べた学術論文を数年に1回発表している。

 日英の大学で史料を調べ、古文書を繰った経験を『テムズとともに』でこう書く。「生の史料に当たり、ある時は読みにくい文字に奮闘しながら、またある時は舞い上がるほこりを吸いながら取り組むことは、何か史料を通してその時代の温もりを感じるような気がしてひじょうに嬉しいことであった」

(朝日新聞編集委員・北野隆一)

AERA 2019年5月13日号より抜粋