ヨシタケシンスケ/1973年、神奈川県生まれ。初の絵本『りんごかもしれない』が第6回MOE絵本屋さん大賞第1位に。2018年の「“こどもの本”総選挙」で上位10冊に4冊が入った(撮影/今村拓馬)
ヨシタケシンスケ/1973年、神奈川県生まれ。初の絵本『りんごかもしれない』が第6回MOE絵本屋さん大賞第1位に。2018年の「“こどもの本”総選挙」で上位10冊に4冊が入った(撮影/今村拓馬)

 絵本作家でイラストレーターのヨシタケシンスケさんによる『思わず考えちゃう』は、著者が毎日持ち歩く革の手帳に描いたスケッチと、その絵の解説を語りおろした貴重な一冊だ。ヨシタケさんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 いつでも手で隠せるようにと、革の手帳にちいさく、ちいさく描いてきたスケッチ。人に見せるつもりがなかった絵の一部を本にまとめた。

「仕事の水面下の部分を人に見せるなんて、無粋だと思う作家さんは多いと思います。非常に申し訳ない気持ちです」

 とひたすら恐縮する。ただ、スケッチにはスケッチの良さがある。そのライブ感だ。

 例えば、この本の中にある、息子がひっくり返り、お尻の穴を全開にして「ねえ、うんちついてる?」と聞いているシーンを描いたスケッチ。

「実はこの絵、ちゃんと描けてないんです。だってお尻の奥の方が大きく見えるはずがないじゃないですか。だから何回も描き直そうとしました。でも絵は正しくても、描いたときの興奮がそぎ落とされてしまう。そういう意味で、一番ワクワクした状態で描いた絵を見てもらうっていうのは、うれしい気持ちもあるんです」

 スケッチは、ストレスがあるときにたくさん描くという。

「自分を盛り上げるために記録を残すんです。どうでもいいシーンを面白がることができれば、つらいことがかなり減るはずなんですよ」

 こうして描く中で気づいたことがある。

「どうでもいいところも丁寧に拾っていくと、考え方ひとつでドラマチックにもなるってことを自ら開発しました」

 本の中にこんな一文があった。

<「どうでもいいこと」の中に、実は「その人らしさ」とか、「人間らしさ」なんかがにじみ出ているハズで、そのカケラをコレクションすることで見えてくるものも何かあるんじゃないか、というボンヤリした期待があるのです>

 どうでもいいことを見逃さず、観察してドラマチックに磨けるからこそ、『りんごかもしれない』や『もう ぬげない』などの絵本が生まれたのだろう。

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