AERA 2019年1月28日号より(写真:岡田晃奈)
AERA 2019年1月28日号より(写真:岡田晃奈)

 誰かとご飯を食べたくなったとき、いろいろな人とつながる方法が出てきた。「同じ釜のメシ」を楽しむ輪が広がり始めている。

*  *  *

 京王井の頭線の浜田山駅を降り10分ほど歩くと、目的の2tom(ツトム)さん(35)の家に到着した。緊張気味にインターホンを押すと、

「どうぞ」

 気さくな笑顔で迎え入れられホッとする。家に上がると、ツトムさんは料理の最後の仕上げに入っていた。

 記者が参加したのは「みんなで食べる『みん食』」をコンセプトに、食べて人がつながる場を提供する「KitchHike(キッチハイク)」のご飯会だ。「クック」と呼ばれる料理したい人と、「ハイカー」と呼ばれる食べたい人とをサイトでつなぐ。ユーザー数は3万人。毎月300回の食事交流会が開催されていて、飲食店に集い食べる「みんなでお店」もある。

 開始時間の11時半になると、参加者がそろった。みんな単独参加でほぼ初対面だ。この日のメニューは、炭火風ジューシー豚丼、たまごサラダにみそ汁。ごくごく普通のご飯だ。盛りつけなどの準備や片付けは参加者全員でするのがキッチハイク流。「いただきます」をし、甘辛風味の豚丼を口にすると、ゆるっ。その場の空気がほぐれた。

「うん。おいしい」

 絶叫しないといけないようなおいしさでなく、心と体がなごむおいしさだ。会話もはずみ始める。キッチハイクの情報交換を皮切りに、サバ缶ブーム、左利きのための包丁探し、参加女性が100キロ近くまで太り半分に戻したダイエット体験、親戚から毎年送られる新巻きザケさばきに悪戦苦闘する話──。

「鍋にしたらおいしそう!」
「それ、キッチハイクのイベントにしたら?」

 正直、知らない人ばかりのパーティーは苦手で、参加前は「ぼっち不安」もあった記者だが杞憂だった。肩の凝らない家庭料理にリラックスし、「食」をめぐる話題は誰もが共有できる。ゆるゆる打ち解け、誰かを傷つけたり、深刻になったりすることのない、他愛のない会話がひたすら楽しく温かい。

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