小松さんとラドワンさんの話に戻ろう。当初は喪失感や孤独感にさいなまれたラドワンさんだったが、モスクでイスラムのコミュニティーに出合い、同胞を得た。そのつながりで仕事も見つかり、2児にも恵まれた。

「いま、彼は収入は低いながらやりがいのある仕事で、リラックスして働いています。日本にいますが、アラブの恩恵で生きていることを痛感しています」(小松さん)

 当初は文化の違いや社会の厳しさにうちひしがれていたラドワンさんだったが、数年過ごしているうちに日本で生きる覚悟が決まったという。

「彼はとても信心深いのでこれは運命だと言う。自分たちはそれを受け入れていくという強さがあります」(同)

 国立社会保障・人口問題研究所の林玲子国際関係部長によると、日本における永住ビザ取得者は00年から増え続けており、18年6月時点で永住者は108万人超。17年には1年間で増加した外国人の数が減少した日本人数の47%に達したという。

「外国人が日本の人口減少を埋めている状況です。日本で働き、日本語を話し、元の国籍を持ったまま永住ビザを取る人も増えている。『日本人』の定義を広げていく方向に舵を取るタイミングなのかもしれません」

 前出の羽田教授はこう言う。

「海外の人にとって国籍は、アラブといった民族性やイスラムといった宗教性などたくさんある帰属意識の一つにすぎない。日本人は『何人か』という意識が強く、他の人たちもそういった帰属意識を持って動いていると誤解してしまう。このことが世界を見えにくくしているかもしれません」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号