「国民国家で世界が覆われていれば人の移動はコントロールできるはずですが、その状況は一度終わりました」(羽田教授)

 経済と情報のグローバル化は不可逆的に進行しているが、国のあり方は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」のように、その反動のような様相をみせつつある。一橋大学の鵜飼哲特任教授はその背景の一端をこう説明する。

「クリントン氏が米大統領の時、中国のWTO加盟を支持しました。自由貿易圏に入れば中国にもソ連・東欧圏と同じようにリベラルな変革が起きると期待したわけですが、中国は権威主義的な体制のままグローバル化に優れた対応を示しました」

 ソ連崩壊は体制の硬直化による技術発展の停滞が原因だったが、現在は政権交代がない国の方が技術革新のスピードに対応できるという逆転現象が起こっているというのだ。

「それもあって『自由民主主義体制』を採用している国々でも、権威主義的な統治方式に対する誘惑が強くなっているといえます」

 現代の難民に不可欠なものはスマートフォンだ。SNSで情報交換し、GPSで移動ルートを確認し、翻訳アプリで受け入れ国の言葉を学ぶ──。キャンプで支援をじっと待つという、依存度が高い難民イメージからは遠く離れた姿だ。

「自分で情報を得て取捨選択するような自立度の高い難民で、社会の担い手になりうる人たちです。その人たちの強みを受け入れて、社会のメリットにするということを考えてほしい」

 そう話すのは、国連難民高等弁務官事務所駐日事務所の守屋由紀さんだ。守屋さんは、難民と受け入れ国の双方にメリットがある支援が重要という。

 例えばシリア難民を大量に受け入れるヨルダンでは水資源が乏しい。人道機関だけではなく、開発援助機関も協力してヨルダンの上水道整備を支援するなどすれば、ヨルダンにとってもプラスになる。

「難民が負担になるのではなく、難民が来ることで社会が潤うというような思想にシフトチェンジしていかないといけません」

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