その田中氏を高く買っていたのが金融庁の森信親・前長官だ。田中氏を同庁参与に招き、「金融モニタリング有識者会議」など三つの審議会の委員に就けた。経産省も「IoT推進ラボ(IoT支援委員会)」の委員に招いた。

 この官僚人脈が、その後のJIC社長へとつながっていく。

「田中氏をJIC社長に推薦したのは、金融庁の森長官と、田中氏と同じ金融庁参与を務めた経営共創基盤代表の冨山和彦氏でした」
 金融庁関係者はこう語る。経産省や金融庁に顔が利き官邸にも近い冨山氏は、田中氏と同時にJICの社外取締役に就いた(今回の退陣劇で辞任)。

 ただ、田中氏が9月25日に開いたJIC社長就任会見で、早くも歯車が狂い始める。

「(JICは)ゾンビ企業の延命のための投資はやらない」

 田中氏の発言を聞いた関係省庁の幹部は、筆者にこう語った。

「ゾンビ企業とはJICに抱えさせるクールジャパン機構を想定しているようで、不愉快だ」

 経産省が所管するクールジャパン機構は、日本の魅力を訪日客増につなげるビジネスなどに投資する官民ファンドだったが、収益が上がらず損失を抱えている。田中氏の「ゾンビ発言」は、このクールジャパン機構をJICに統合することに異を訴えたと受け止められた。

 一方、永田町周辺では別の見方もある。日産のカルロス・ゴーン前会長の逮捕に絡んだ、経産省の“思惑”があるのではないかとささやかれている。

「経産省は、ゴーン問題でもめている日産・ルノーの資本関係について、日産がルノー株を買い増し、議決権を持つためにJICの資金を活用するのではないか」(永田町関係者)

 この投資を実現させるためには、純粋な投資戦略を主張する田中氏は邪魔だったのか。単なる「人事劇」を超えた綱引きがあった可能性は捨てきれない。(ジャーナリスト・森岡英樹)

※AERA 2018年12月24日号