傍らを行き交う車が、次々とクラクションを鳴らす。運動を応援するメッセージだ。

 毎月の障害者年金600ユーロ(約7万8千円)を頼りに独りで暮らす元トラック運転手のルネ・ボジックさん(55)は、32歳のソーシャルワーカーの息子から仕送りを受けている。「国会議員の数をまず減らすべきだ。どうせ我々に耳を傾けないんだから、いたっていなくたって一緒だ。マクロンも外交に力を入れる前に、まず自分の国をどうにかするべきだ」

 4週間、全土で続いたデモに、政権は燃料増税の1年間凍結や最低賃金引き上げ表明に追い込まれた。だが、デモはなおやまない。

 彼らの怒りの根底にあるのは、政権の企業寄りな政策への不満だけでなく、政治不信だ。「自分たちは無視され、誰にも代表されていない」という、諦念の一方でくすぶり続けた思いが燃料になっている。

 ジレ・ジョーヌはSNSの呼びかけに応じて、自発的に集まった。政党や労組といった組織に代表されることも拒む。リーダーもいない。だから多くの野党も、運動を政治的エネルギーに変える好機のはずなのに、拒否されるのを恐れて連携へ及び腰になっている。それだけ新しい運動なのだ。

 マクロン大統領は政権発足以来、最大の危機を迎えている。

「古い政治からの脱却」を掲げ、政党組織も地盤もなかった彼にとって、まさに「アンガージュマン(参加)」を呼びかけてきたのが、こうした無党派層だったからだ。ジレ・ジョーヌは今、皮肉なことに、マクロンに対抗する形でアンガージュマンにのめり込んでいる。 (文中一部敬称略)

(朝日新聞国際報道部・疋田多揚[パリ])

AERA 2018年12月24日号