「マクロン、辞任」と連呼しながら凱旋門に向かうデモ参加者=8日、パリ(撮影/疋田多揚) (c)朝日新聞社
「マクロン、辞任」と連呼しながら凱旋門に向かうデモ参加者=8日、パリ(撮影/疋田多揚) (c)朝日新聞社

 燃料税の増税に端を発した反政府デモは4週間続き、やむ気配がない。「もうマクロンは信じられない」。失望は怒りへと変わっている。

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 私が初めて「ジレ・ジョーヌ」(仏語で「黄色いベスト」)運動を目にしたのは11月23日のこと。フランス東部、スイスとの国境沿いの小さな村でのことだった。幹線道路の片側が何台ものトラックで埋められて封鎖され、ジレ・ジョーヌを着た人々が交通整理をしていた。

 確かに実力行使だが、片側は通している。そもそも辺境で交通量が乏しく、大して妨げにもならない。人々は交差点脇でたき火をたいて談笑している。警備中の憲兵までなぜか黄色いベストを着ていた。どこか楽しげで、のどかな光景だった。

 その背景にどれほどの怒りがあり、それが政権を追い詰めることになるのか、その時はわからなかった。

 ジレ・ジョーヌと言えば、毎週土曜にパリで車両が燃え、店が荒らされる映像が流れるが、12月8日のデモの参加者13万6千人のうち、パリ市内はわずか1万人だ。パリの参加者も郊外や地方から来ている人が多い。

 運動の中心はあくまで地方だ。

 12月中旬、仏中部のロワール川の源流近く、レース編み物やレンズ豆で有名な人口2万人弱ほどのルピュイアンブレに私は向かった。マクロン大統領が4日、暴徒による被害を確認に訪れた街だ。

 郊外の交差点脇の空き地では、20人ほどの参加者が、夜の暗がりでたき火を囲んでいた。音楽が鳴り、ソーセージや炭酸飲料を持ち寄って話している。座り込みの抗議運動だ。

「環境を大事にするのは賛成。許せないのは、私たちの税金を政府が横領していること。金持ちは金を持ち続け、中流階級はひたすら働き続ける。政府は企業や銀行の税逃れも放任。もうマクロンを信じられない」

 看護師のソフィーさん(52)はそうまくしたてた。勤務先の公立病院では人手が足りず、緊急の患者でも6時間待たせることがあるという。「マクロンは私たち国民のことなんてどうでもいいと思っている。でも、この地方でこんなにデモが続いたのは初めてのこと。フランスは革命でできていることを忘れてはいけない」

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