担当者は言う。

「大和さんは質問や要望に対するアクションが早く、優等生でした。だからこそ、スピーディーに進んだと思います」

 企業の人材ニーズを探ってみると、思わぬチャンスが眠っていることがある。

 大和さんのケースでは、経歴を知ったいくつかの企業から一度会って話をしてみたいという申し出があり、短期間で2社との面談が実現。そのうちの1社である高田工業所に採用が決まった。

「年齢を重ねると転職のタイミングも難しくなりますよね。責任ある立場にもなるし、簡単には今の会社を辞められないと考えてしまいます。でも、これから転職されたい方にアドバイスするとすれば、今いる会社のために転職のタイミングを先延ばしにする必要はない、ということです」

 と大和さんは言う。

「田舎に戻っても次の仕事はないといったネガティブな声ばかりが耳に届くかもしれませんが、いくつになっても、可能性はいくらでもあると思います。私が良い例です。ぼんやりとでもU・Iターンを考えている人がいたら、一度真剣に考えてみてほしいですね」

 数十年ぶりに帰ってきた北九州の印象は、

「変わってないです」

 と笑う大和さん。

 懐かしい建物が残っていたり、代替わりしてもなお続いている病院や商店など、人が変わってもまち自体は昔の雰囲気が残っているという。

 東京では滅多に味わえないふるさとの美味しい魚に舌鼓を打ち、方言でのコミュニケーションも懐かしく楽しんでいる。プライベートでは趣味のゴルフが気軽に楽しめる環境にも満足している。

 公私ともに充実の毎日を送る大和さんに、次の夢を聞いてみた。すると、

「前から取りたかった技術士という資格を取ろうかと思っているんです」
 との答えが返ってきた。

 北九州での第二の人生は、始まったばかりだ。

AERA 2018年12月3日号より抜粋